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引き続き、市内パトロール後半戦である。 「どこに行きましょうかね」 俺と朝比奈さんはファーストフードを出た後、どこへともなく歩を進めている。はたから見ればじらしい男女カップルのはずであり、まさか夢世界の存在を探してさまよい歩いているとはそれこそ夢にも思わないだろう。 「そうですねえ。お買い物は午前中に古泉くんとしちゃいましたしねえ」 古泉で思い出した。 「そういえば古泉は何か言ってましたかね。あいつに昨日生徒会室で見つけたメッセージのコピーを渡したんですけど」 「いろいろ訊かれましたよ。昨日の学校の様子とか、未来がどうなっているかについても。未来のほうは解りませんとしか答えられなかったけど。まだねじれが元に戻る気配がまったくなくて先が見渡せないんです」 そりゃ、長門が戻ってこない限り時空間のねじれも収まることはないだろう。というより、戻ってもらっては困る。それはようするに長門がいない未来が俺たちの未来だと決定されちまったってことだからな。分岐の選択を誤ってはならん。 「パスワードのことは何か言ってましたか? 何か解ったとか」 「うん。どこかのパソコンやデータにかかってるロックをはずすためのものだろうって言ってましたけど」 そんくらいは俺でも見当がつく。 「他に何か言ってなかったんですか? 具体的にどこのロックを解除するとか、どんな意味を持ってるのか、とか」 「ううん。それ以上は解りません、って古泉くんは言ってました。……でも、もしかしたら本当は解ってるのかもしれませんね」 「あー。……えーと、どういう意味ですか?」 朝比奈さんの口からこぼれた一言に付け入ってみると、朝比奈さんはうつむき加減になった。 「あたしたち、というよりは未来人と超能力者っていう区切りで言ったほうがいいと思うんだけど、この二つの勢力は完全な同盟関係にあるわけじゃないんです。今もお互いの動きを見張ってて、ふとしたことから関係が激化することもありえるって感じ。だから、たとえTPDDが使えなくて未来とコンタクト不可能な状態のあたしでも、古泉くんの組織が不用意にそんな貴重な情報を渡してくれるとは思えないんです。あ、もちろん古泉くんに悪気はないんですよ。ただ、どうしてもそうなっちゃってるだけで」 俺はいつだったか、朝比奈さんと古泉がお互いの考えを信用するなと言ってきたことを思い出していた。映画撮影のときだっただろうか。朝比奈さんや古泉が言っているのは、あくまで一つの考え方を言っているいるだけだとお互い非難し合っていた。 あれからずいぶんと経ったものだが、未来人と超能力者はいまだに信用しきれる関係までにはいたっていないらしい。 「それじゃ、古泉は朝比奈さんに何も教えてくれなかったんですか? ちょっとしたことでも」 「そうなんだけど……でもキョンくん、誤解しないで下さいね。古泉くんが本当に何も解らないこともありえるから」 さあどうだろうね。あの説明好き古泉なら、正答でなくとも可能性のある考えぐらいは提示してくれそうだが。 皮肉なものだ。 目を伏せている朝比奈さんを見たらよけいそんな思いに駆られた。 朝比奈さんが、未来人という立場からではなく独立した存在として俺たちを助けたいと決意してくれているのに、古泉の組織はそれを信用してくれない。朝比奈さんはあくまで未来人の一端であるという考え方を捨てないのだ。よって、朝比奈さんは行動を起こしたくても起こせない状況にある。 古泉を非難しなければならないだろう。 そうでなければ、未来に影響されることなく自分の思うように行動したいと言ってくれた朝比奈さんがあまりにも報われん。愛らしいからとかそういう感情を抜きにしても、こんな哀しそうな表情をしている朝比奈さんを放っておけるやつはいないぜ。 「あれ、もしかしてキョンかい? これは、なんと珍しいこともあるものだね」 俺は不意に背後から投げられたひょうきんな声によって現実回帰を果たした。 「ひゃっ……」 横で驚いたような声を出して俺の腕にしがみついてくる朝比奈さんを感じながら振り向くと、そこには見覚えのある顔が三つ。 「お前ら――」 ヒントを出すと、男一人で女二人だ。 「同じ市内に住んでいるのだからさほど珍しくはないかもしれないが、こうしてかつての同級生と街中で再会するという偶然は何ともロマンチックなものだとは思わないかい? それとも、キミにとっての僕というのはかつての同級生扱いしてくれるうちには入らないのかな」 こういう喋り方をするのは、俺の知り合いには古泉以外ではあと一人くらいしかいない。 ただの昔の同級生だったはずが、今年の春になって妙な連中を引き連れ、ご丁寧に自分のプロフィールまで書き換えて俺の前に再登場したやつである。神様アンド九曜騒動以来ご無沙汰かと思っていたら、こんなときにひょっこりと現れてくれた。 そしてその横に伴われているのは微笑を浮かべる女とふてくされたようなツラをする男であり、嫌なことに両方とも顔見知りである。男のほうはいつでも不機嫌オーラ全開のために第一印象も最悪に近いものだが、女のほうは気だてもよさそうだし顔とスタイルだけ見ればもう少し惹かれるものがあったかもしれんな。どっちにしろ俺はそうではない出会い方をしちまったもんだから、この誘拐女に魅力を感じるとか感じないとかいう予測がシロウトのトランプ占い以上に何の役にも立たないことは知れているのだが。 わざわざ引っ張る必要もないか。答えを言っちまおう。 そこには、ハルヒ的パワーを持つ佐々木、朝比奈さん誘拐犯の橘京子、いけ好かない未来人野郎の藤原が、三者三様の表情をして立っていたのだった。 * 「ごめんね佐々木さん、この人に会うように少しだけ時間と歩くルートを調整させてもらってたんです。偶然ではないの」 驚くべきことに、最初に橘京子の口から発せられたのは俺に対するものではなく佐々木に対する謝罪の言葉だった。 俺は不快感を隠すことなく橘京子に向かって、 「何の用だ」 「ふふ。用があることは確かなんですけどね。そうだな……あの川沿いの公園に行きましょうか。お互い訊きたいことはいろいろあるでしょうけど、お話しするのはそこで腰を落ち着けてからにしましょう」 いいですよね、というふうに佐々木と未来人(男)に目を向ける。佐々木は無言でうなずき、未来人野郎はふんと鼻を鳴らした。最後に俺と朝比奈さんに目をやる。 俺は朝比奈さんに確認を取って首肯させてから、 「こちとらハルヒと集まって街探索の途中なんだ。変に時間を使うようなこととか、そういうのはなしにしてくれ」 「大丈夫です。せいぜい事実確認とこちらの方針をお伝えする程度ですから。時間をそんなにいただくつもりはありません」 そう言うなり橘京子は先頭切って歩き出し、佐々木も藤原も後に続いたため俺たちも歩き出すほかなかった。 約一名、つまり周防九曜の姿が相手方に見えないのは仕様だろうと片づけることにした。 おかげでより確信が強まったね。誰か――それも九曜か、あるいはそれにかなり近い存在がどこかで采配を振っているに違いない。そうでなければ九曜がこの場にいない理由がないのだ。そして、そいつは間違いなく長門を消した張本人だ。そいつは長門の敵、ひいてはSOS団の敵である。 何となく頼りなかったので、いったんは古泉も呼ぼうかと思っていた。しかし考えればあいつは運がいいのか悪いのかハルヒと二人で不思議探索中であり、古泉を呼んだつもりがオプションとしてハルヒまでついてこられては文字通り話にならないので俺は一度出しかけた携帯を上着ポケットにしまいなおした。 「キョンくん、この人たちって」 俺とともに隊列の最後尾を構成する朝比奈さんが小声で不安げに尋ねてくる。 「ええ、春の時の連中です。約一名姿が見えませんけど」 「大丈夫かなあ……」 朝比奈さんが呟きともとれるほど小さな声で呟いた。俺は反応するべきかしばし考えてから、 「大丈夫だと思いますよ。相手も九曜がいないらしいですし、何の話もなしにいきなり危害を加えてくることはないでしょう。それに、いざとなったらこっちには古泉もハルヒもいるんですからね。何のことはない、あいつらを頼ればいいんです」 朝比奈さんははっとしたような感じで顔を上げ哀愁とも怒りともつかぬ微妙な表情をしていたが、やがて「そうですね」と言って顔を伏せてしまった。あれ、何か悪いことを言っただろうか、俺。 * 休日であるために公園内の人口密度はそれなりに高かったが、いるのはせいぜい何も知らないガキとそれを引き連れる親だけであり、スパイやエージェントはおろか普通の高校生の姿もなかった。当然と言えば当然か。 超能力者と未来人と一般人という取り合わせの俺たちは、なるべく人気のない公園の隅に寄り集まった。周りはほのぼのした雰囲気だが、俺たちの間に流れる空気はそんなに柔らかいものではない。 「えっと、どう切り出していいか解らないんだけど」 口火を切った橘京子はそう前置きし、 「とりあえず謝っておきます。ごめんなさい。二月の誘拐未遂といい春とといい、いろいろ迷惑をかけました。怒りたい気持ちは解るけど少し我慢してくれませんか? 今のあたしに敵意はありませんから。けど、そちらの未来人さん、もしあたしたちといて気分が悪いようなら席をはずしてもらってもいいですよ」 誘拐女の目線が朝比奈さんを捉えると朝比奈さんはびくっとした感じで俺の腕にすがってきた。しかし動くつもりはないらしく、そのままの姿勢で固まっている。 橘京子はそれを見てこほんとわざとらしく咳払いした。 「涼宮ハルヒさんを監視している宇宙人、つまり長門有希さんのような存在ですね。彼女たちや他の宇宙人さんが、二日前の金曜日からこの世界にいなくなっているのは気づいてるよね?」 そうでなかったら橘京子と話す義務など皆無である。プライベートで会おうと言われたら二秒だけ考えてから断るね。 「そうですね。じゃあプライベートの誘いは控えるようにします。ふふ、ちょっと残念かしら」 どうでもいい。俺に色目使ったって、せいぜい喫茶店代くらいしか出てこないぜ。 「ごめんなさい。では話を戻しますが、実は最近いなくなってしまったのは、あなたがたが情報統合思念体と呼んでいる存在のインターフェースだけではなかったの。見たら何となく解るかもしれないけど、こちらでも九曜さんがいなくなってるのです。どのくらい経つかしら、先週の休日に集まったときはもういなかったわよね?」 「そうだね。彼女のことだから超能力的な力を使って透明人間になっているだけかもしれないが、少なくとも僕の目はここ一週間彼女を捉えてないよ」 佐々木の反応に、藤原も面倒くさそうに首肯した。 「単純に休日の集まりに参加してないだけとか、そういうことはないのか?」 「それはないな、キョン」 俺の説を佐々木はあっさりと否定し、 「彼女はね、なんだかんだ言って休日に僕たちが集まるときには必ず来るのさ。僕たちを観察しているつもりなのか知らないが、何も喋らないからよけいに興味を惹かれるんだ。稀に来ないのは藤原さんぐらいなものさ」 「僕には毎度毎度律儀に集まるほうの気が知れないね。僕は無意味に動くようなことはしないんだ」 佐々木は苦笑して肩をすくめた。 まあ、そうか。実は俺もそうじゃないかと思ってたんだが、ただ聞いてみただけさ。 なるほど長門から聞いたエピソードそのままである。一週間ほど前に周防九曜が地球から出ていって、そのために天蓋領域の位置も特定できなくなっているという。日数的にも橘京子が言ったことと長門が教えてくれたことは一致している。 俺は驚く代わりに疑問をぶつけた。 「それが、長門たちが消えたことに関係してるって言うんだな?」 橘京子は言いにくそうにして、 「あまり考えたくはないですけど、その通りだと思います。偶然にしては都合がよすぎるもの。九曜さんが消えた後にすぐ長門さんたちが消えていますし、彼女たちが敵対関係にあることを考えても何か関係がある可能性は高いです」 「関係とかそんなんじゃなくて、単純に九曜が長門の目の届かないところから攻撃しようとしたとかいうことなんじゃないのか?」 俺は古泉に話してやった論説を橘京子たちにもう一度説明してやった。 九曜が突然姿を消したのは長門たちの目をくらますためであり、敵に自分たちがどこにいるかを解らなくさせておいてから不意打ちをしかけるためだった。事実、長門は天蓋領域の位置特定ができていないと言っていたしな。そんでもってその作戦は見事に成功し、敵の居場所が解らなくて防御できなかった長門たちは消し去られてしまったのだ。古泉によると九曜には肝心の存在を消す力はないらしいが、面倒な話になりそうなのでここでは披露しなかった。 橘京子と佐々木は興味深そうに、藤原はつまらなさそうに、朝比奈さんは驚きを交えながら俺の話を聞いていた。 「と、いうのが俺の推理だ」 俺が言葉を切ると、真っ先に佐々木が反応した。 「いやあ、すごいなキョン。キミにこんなにも事実を鋭く捉える力があったとはね。それだけの材料が集まっていたとはいえ、なかなかできるものじゃないよ。たぶんいい線を行っているんじゃないのかな?」 「あたしもそう思います」 橘京子が続く。 「最初はもしかしたら二人とも宇宙にある強大な力に消し去られてしまったんじゃないかと思っていたんですけど、確かに不意打ちという解釈ができますね。そう言われてみるとそんな気がしてきます」 お世辞だか本気で言っているのか知らんが、そんなのは時間の無駄だからいい。藤原が俺の話を聞く気がなさそうなのも無視だ。 「それで、お前らはどうするつもりなんだ。仮に俺の言った推理――九曜が長門やSOS団を攻撃しようとしているってのが正しいとしたら、お前らの組織はどう動くつもりなんだ。お前も九曜の仲間だから、やっぱり加勢してSOS団を攻撃するつもりなのか?」 「冗談じゃない」 ひねくれた声を出したのは橘京子ではなく藤原だった。この未来人野郎は眉間に皺を寄せて俺を睨みながら、 「これはあの広域帯宇宙存在の手前勝手な行動だ。独断もいいところさ。時空間をさんざんねじまげたあげく、僕の未来にまで手を出してやがる。規定事項も変数乱数の状態だし、TPDDによる時間移動もあらゆる時間修正も不可能。たぶんあんたの未来もそうだろう?」 藤原は朝比奈さんに目をやった。 「えっ、は、そうです。TPDDは使えないし、分岐が時間平面上に大量発生してて未来が確定されてません」 「もしかしたら意図してやってるのかも知れないが、わざわざ僕の邪魔までしてくれた。この時間平面上の時空間をこじらせるのならともかく、僕の未来まで改変するような奴を手助けするつもりはないね」 俺には少なからずザマミロという感情が芽生えていたが、藤原は卑屈に笑って続けた。 「ただし、それがなかったら僕の判断は違っていたかもしれない。ある意味では、これは目障りな組織どもを一掃するチャンスさ。あの宇宙人が消えれば涼宮の力はほぼ無防備に晒されることになる。九曜の連中をどうにかして総攻撃をかければ、僕の未来がその力を抽出することも、それを使って何かをすることも可能になるわけだ。あいにく、その未来が封じられてしまった今はどうしようもないが」 とんでもない妄想語りだ。 ハルヒの力を手に入れられるだと? ふざけるな。あいつは無機質の物体ではなく有機移動物体だし、その頭ん中と行動力にかけては常識をはるかに超越している。だからまともな手段でハルヒに近づこうったってハルヒは大規模な閉鎖空間でも作って知らせてくれるだろうし、力尽くでってんならSOS団サイドが黙ってないぜ。藤原には到底無理な話だ。九曜なら、あるいはできるかもしれんが。 ん? 待てよ。何だこの感覚は。 ハルヒの力を手に入れて、それを使って何かをすることができる。ハルヒの情報改変能力。強大な力。九曜ならば……? ダメだ。解らん。 一回押し寄せた波が退いていくように、一瞬だけ俺の頭に現れた感覚もすうっと醒めていった。 はたして、俺たちの間には沈黙が訪れた。周りのガキと晴天の空の雲だけが動き続ける、嘘っぽいほどのどかで暖かい風景。 俺が考え疲れて、気晴らしに缶コーヒーでも買ってこようかと自販機に向かって踏み出そうとしたとき、 「あたしたちのこれからの動きについてなんだけど」 橘京子が沈黙を破った。仕方ないので俺も橘京子に向き直る。 「実は、あたしたちの組織も混乱しているのです。古泉さんのところもそうだと思うけど、こんな事態は想定外です。九曜さんが独断を強行するなんて考えてもみませんでした。それに、たぶん未来人さんにも予測は不可能だったんじゃないかしら。彼らの言う、規定事項じゃない、ってことでいいのかな?」 「そうなんですか朝比奈さん」 朝比奈さんはうつむいたまま、 「そうです。今みたいに未来がたくさんできちゃってるってことは、規定外のことが起こったってことなんです。あたしが知らされてないんじゃなくて本質的に予測不能のことだと思います」 「未来からすればこれはノイズみたいなものさ。九曜がやったのか九曜の上の立場の奴がやったのか、どっちにしろ余計なチャチャを入れてくれたもんだ」 藤原の声が付け足した。 「未来人にも解らない突発的なものなんですね。うん、ノイズって言うのが正しいかもしれないわ。誰にも予測ができなかったのだから相当無理やりな行動です。はっきり言うと、あたしの組織はこの事態を歓迎していません。誰にどんな影響を及ぼすのか、その結果世界がどうなるのかまったく解らないもの。下手をしたら涼宮ハルヒさんも佐々木さんも、それを取り巻く人間もすべてこれを招いた人――九曜さんの可能性が高いけど――の手中に収まってしまいます。それだけは回避しないといけません」 しかし、回避するったってどうするつもりなんだ。九曜じゃなくても長門の類の宇宙人を一夜にして地球上から抹消できるような奴なら、橘京子の一派や『機関』だけでは太刀打ちできそうにない。ハルヒの不思議パワーを使えばどうにかなるかもしれんが操縦しようとしたところで暴発するのが関の山だな。それに、悪いが未来と接続を絶たれた状態では未来人がそれほどの役に立ってくれるとは思いがたい。って、一番何もできない俺が言うのもアレだが。 俺が何か他の可能性を模索していると、この超能力娘が古泉見習いのような微笑を称えてさらりととんでもないことを口にした。 「場合によっては、あたしやあたしの組織はあなた方に加勢します」 笑ってやろうかと思ったが冗談ではない雰囲気なので放棄して、次に俺は耳を疑い、耳も安泰らしいと解ると俺はいよいよ絶句した。 橘京子の組織がSOS団の味方になる? ありえん。 SOS団には古泉もいるんだ。こいつの一派は古泉の組織とはどこまで行っても平行線で対立してるんじゃなかったのか。決して交わることはない、と古泉は言っていた。 まさかとは思うが、そんな大組織がコロッと寝返りでもしたのか。だったらやめといたほうがいい。俺はとてもじゃないが昨日の敵を信用する気にはなれん。昨日の敵は往々にして今日もまた敵なのだ。いきなり友になったりするもんじゃない。眉唾モノの極みである。 「そう言われるとは解ってましたけどね」 橘京子は微笑のまま表情を固定して眉一つ動かさない。 「でも言ってみるしかなかったんです。あたしだって間接的に古泉さんのところと手を組むのはあまり嬉しいことではありません。けれど、共通の敵となりうる存在が現れたからそれに対処するために仕方なくです。でも、嬉しいことじゃないけどそんなに悪いことでもないと思うな。あなたはあたしたちの力を借りるのをよく思ってないみたいだけど、これはあなたたちだけでどうにかなる問題ではありませんよ?」 「何だそりゃ。まるで何が起こってるのか知ってるみたいな口振りじゃねえか」 「ふふ。いろいろ調査させてもらってますから。でもあなたたちだけで対処できる問題じゃないってのは本当よ。想像してみて。古泉さんの組織やここにいる朝比奈みくるさん、あなたが全力を注いだとして、九曜さんやそれに類似する宇宙人にかなうと思いますか?」 思わんね。残念なことに。戦国時代の馬に乗った将軍が何十人いたところで、現代の戦車一台に太刀打ちできないのと同じ理屈だ。情報改変なんて技を使いこなすような九曜に勝てるとは思わん。 しかしな、こちらには涼宮ハルヒと名付けられた最終破滅兵器があることを忘れてもらっちゃ困るぜ。九曜よりももっとタチの悪い爆弾だ。 「忘れてたわけじゃないんだけどね。これは古泉さんも同意見だと思いますけど、外部からの圧迫から逃れるために涼宮ハルヒさんの力を使うのは危険極まりないことなのですよ。彼女の持つ力はあくまで最終手段、八方ふさがりで地球の人間の力だけではどうしようもならなくなったときにのみ、相当のリスクを背負って使わないといけません。あたしたちで何かできるのならそれをしないといけないのです。それがあたしの場合はあなた方と手を結ぶことだったという、ただそれだけです」 どうでもいいが、ハルヒのことをまるで無機質の核兵器みたいに言うのはやめてもらいたい。あながち間違いでもないのがさらにイラつくわけだが、そんなふうに言われると俺の心証が悪くなるのでね。 俺は超能力娘から聞き役に従事しているひねくれ野郎へと視点を移動させた。 「お前はどうなんだ。仲間の超能力者がこんなことを言ってるが、お前も同意見でSOS団に味方するつもりなのか?」 「さあね」 藤原は今度こそ嫌気がさしたように鼻を鳴らすと、すっくと立ち上がった。 「帰らせてもらう。どちらにしろあの宇宙意識が抜けた以上、僕にとっての仲間などというのは何の意味も持たない概念でしかない。ついでに言うと、僕はこの件に関わるつもりはないから安心するといい。面倒事には巻き込まれたくないのでね。そのうちどこかの未来と通信経路が復旧するまで大人しく待っていることにするよ。せいぜい愛しの宇宙人探しをがんばるといいだろう」 後ろから奇襲を仕掛けたくなるような口調で言ってのけ、藤原はこちらを振り返ることなくさっさと公園から出ていった。俺が少なからず疑念のようなものを抱いてその後ろ姿を見送っていると、 「彼は放っておきましょう」 橘京子が珍しくも醒めた声で言った。 「無理に首をつっこませる必要はありません。事態が悪化するのはお互い嫌ですからね」 そのお互いってのはお前と誰を指して言ってるんだ。 「さあ、誰でもいいんじゃないかしら。……あっ、と。そろそろ時間が厳しくなってきましたね。佐々木さん、休日に時間をとらせてしまってごめんなさい」 「いや、僕は構わないよ。実に面白い会話だったからね。むしろ、たいしている意味もないのにこんなところに誘ってくれたお礼を述べたいくらいだ」 俺にとってはずいぶん気分の悪い会話だったのだが。 そんな俺の様子を察したのか、佐々木は困り顔になって言った。 「すまないねキョン、僕はキミに悪意を持っているわけじゃないんだ。逆に憧れはする。一般人の傍観者の立場から入って今まで、キミはどんな葛藤を背負って生きてきたのだろうか、とね。僕のような無理やり与えられた当事者の立場ではないってところが重要なんだ」 「…………」 俺は答えなかった。というよりか、答えたくなかったのかもしれん。理由なら訊くな。何となくだ。 「ますます気分を悪くさせてしまったかな。重ねて申し訳ない。申し訳ないついでに忠告しておくと、そろそろ駅前に帰ったほうがいいんじゃないだろうか。涼宮さんが怒ったところはずいぶん怖そうだからね」 「ああ」 俺は腕時計に目をやった。もう約束の四時が差し迫っている。俺は帰るキッカケを得たなと思って立ち上がると、 「じゃ、俺たちも帰らせてもらうぜ。ほら朝比奈さん行きましょう。少し急がないとやばいですね」 「あ、は、はい」 ぼうっとしていた朝比奈さんは俺の声で我に返ったようになり、佐々木と橘京子に向かってちょこんと頭を下げると俺の後についてきた。 「じゃあな、佐々木。あとそっちの超能力者、妙なことだけはするなよ」 俺は釘を刺すと、それとなく朝比奈さんの手を引いて小走りに川沿いの公園を出た。 * 指定された駅前に戻ると、二分待ったと言ってしかめ面をするハルヒ、そしてその横でどっかのホストクラブから間引いてきたような顔をして立っている古泉がいた。 夏が近づき、それに比例して日も長くなっているために外はまだ真っ昼間の様相を呈していたが、他に行くところもないので今日はこれにて解散ということになった。 「明日も九時に駅前集合だからね!」 というのがハルヒから俺に向けられた唯一の言葉であり、あとは朝比奈さんに近づいて栗色の髪をいじったりしている。いつものことさ。今日はその横に伴われて黙々と歩く少女が足りていないだけだ。 「あなたからお借りしたパスワードのことについてですが」 俺がそんな女子部員二人を見るともなしに眺めていると、俺の隣を歩く男がささやいてきた。古泉は困り笑顔になって、 「すみません、解りかねます。まったくわけが解りません。どこのロックを解除するためにあるのか、そもそもすべての始まりとは何なのか、いろいろ考えてみましたが全然ダメですね」 俺はそんな言葉を吐く古泉に軽薄な目線を寄せ、 「何か可能性のある考えとか仮説は?」 「いえ、そんなものを立てようにも皆目見当がつかないんです。ただ、どこかのロックを解除するためのものだとしか」 ちっ。 と、俺は内心舌打ちした。昼間に朝比奈さんが解らないそうですと言ってきたのは本当に解らなかったのか。考えも仮説もなし。何だ、せっかく古泉に考えるチャンスをくれてやろうと思ったのにな。いや、俺がここで残念がっても仕方ないのだが。 「参りましたね。おそらく僕が考えていても到底解りそうにありませんから、今日にでも『機関』のメンバーに助力を頼むこととします。ご安心下さい、僕が信頼を置いている確かな人物にしか見せませんから。ですから、このコピーはそれまでお借りしていてもよろしいですよね?」 「別に構わん」 しかし、ということは昼間のは朝比奈さんの思い違いだったのか。超能力者はそんなに未来人を避けているわけではなく、朝比奈さんが被害妄想を抱いていたということなのか? いや、もしかすると今回のは偶然だったのかもしれん。もし古泉が午前の時点で解答を得ていたとして、その答えを朝比奈さんに教えるという保証はないのだ。とするとやはり超能力者と未来人の間にあるわだかまりはもう解消されていると考えるのは早計か、ううむ。 「何か懸案があるようですね」 どきりとするようなことを言いやがる。勘が鋭いというか、まさかお前には人の心を読む能力でもあるんじゃないのか。 「ありませんよ。時々あったらいいなとは思いますが、やはりないほうが楽しいに決まってますね」 相変わらず微笑みを崩さない古泉に、俺は仕方なく朝比奈さんと話したことをうち明けた。 ようするに、超能力者と未来人はお互いを信用して助け合うほどの間柄ではないのではないか、と。重要な情報は相手には握られたくないのではないか、と。俺はついでに昼に朝比奈さんが唱えていた超能力者と未来人に関する説も話してやった。 古泉は俺の話を興味深そうに聞いていたが、俺が一種の居心地の悪さを感じて言葉を切ると見事なまでに苦笑した。何だよお前は。 「それは考えすぎですよ。確かに我々超能力者と未来人との間には乗り越えられない壁もありますが、一方で共通理解が可能な部分も非常に多いです。それに、以前あなたにお話ししたように、朝比奈さんは護ってあげるべき愛らしい上級生ですからね。これは本心ですよ。あと誤解されないために釈明しておきますが、僕はパスワードについては本当に何も解りませんでした。先ほどあなたにお話しした通りです。それに朝比奈さんがそんなことを考えているなど思ってもみませんでした。まだまだ精進が足りませんね」 古泉の様子に嘘をついている素振りは一切ない。もっとも、ここまで来てまだ嘘をついているようだったら俺は心底古泉を見損なわなければならないのだが、よかったな。 「つうことは、去年の映画撮影のときからお前の組織や朝比奈さん派の未来人は多少なり考えを変えたってことか?」 「どうしてです?」 「いやお前、映画撮影のときに朝比奈さんの言っていることを否定しやがるようなことを言ってたからな。朝比奈さんもまたお前を信じるなって言ってきたが」 古泉はわざとらしく驚いたような顔をして、 「よく覚えてらっしゃるんですね。忘れかけていました。その通りです。我々の『機関』と未来人は今やお互いに歩み寄って、間にある溝を少しでも減らそうと努力しあっている状態にあるんですよ。それの発端というのが面白いことに、このSOS団に僕と朝比奈さんという超能力者と未来人がちょうど居合わせたからなんです。そのおかげでずいぶんと変わりましたよ。朝比奈さんも長門さんもあなたも、そしておそらく僕もね。一年前とは比較のしようがありません」 そんなことは言うまでもない。 朝比奈さんは昔も今も変わらず可愛らしいし、長門にいたってはちっぽけな感情のかけらのようなものを獲得することに成功している。俺はともかくとして古泉だって何か変わっているはずなのだ。こいつはただそれを表に出さないだけでな。 それはいいがお前、肝心の誰かを忘れてないか? 「やはり気づきましたか。わざとですよ。彼女、涼宮さんについては深くお話しようかと思いましてね。SOS団の中で一番変わったのが彼女ではないでしょうか」 変わった変わったうるさい奴だ。終わる前からそういうことは言うべきでないし、ましてや順位づけするなんてもってのほかだ。ハルヒと朝比奈さんと長門に失礼である。 「夏休みのことなんですがね」 古泉はそう言い出した。 「このまま順調に行けば、もうすぐ夏休みがやって来ますね。無論長門さんのいない今が順調に行っているなどと不謹慎なことを言うつもりはありませんが、彼女が見つかろうが見つからなかろうが夏休みはやって来ますから。それで、今日の不思議探索で涼宮さんが合宿のことを話題にあげたものですから、僕は提案してみたんです。せっかくだから今回も殺人劇のようなものを用意いたしましょうか、とね」 余計なことを言うな。 「安心して下さい、あなたが望むとおり彼女の返答は否定形でしたよ。つまり、殺人劇はいらないと言われたわけです。合宿中はSOS団のメンバーや鶴屋さん、あなたの妹さんと一緒に遊び倒すから劇も推理ゲームも今回はいらない、とね。驚きです」 「何がだ」 「涼宮さんが合宿の期間中だけでもファンタジーの世界から手を引こうとしていることに、ですよ。あなたも御存知の通り、彼女は三年前――もう四年前ですね――からずっと宇宙人や未来人、超能力者と邂逅を望んできました。あなたは詳しくは知らないでしょうが、それはもう、ずいぶんといろいろなものを犠牲にしてまで彼女はそういったものを追い続けてきたんですよ。だから僕がここにいる。しかし、今回彼女はそれを夏合宿の間は封印するという心意気でいるんです。考えてもみて下さい、なんだかんだ言って涼宮さんはどんなことでも謎的存在と絡めたがっていたでしょう? 本当は興味が薄れていたのかもしれませんが、表向きだけでも、彼女は今まで不思議を探索するということにしていたんです。それが今回はどうでしょうか。驚くべきことに、彼女は仲間と遊び倒すと言っているのです。つまり、今回の合宿の目的は不思議探しではありません。仲間と友好を深めることなんです。どうです、こんなことは初めてでしょう?」 「そんなことはないだろ」 俺は反論した。 ハルヒの行動の裏付けに全部謎探しが入っていると思ったら大間違いだ。ハルヒが今日不思議探しなんて称してやってるのは周りの人間から見ればただのヒマな高校生が遊び回っているようにしか見えないだろうし、事実そうである。今日の午前中に俺とハルヒはデパートに行ったが、あれは不思議を探すためなんかじゃないと今なら断言できるね。不思議を探すことなんかじゃなく、SOS団のメンバーとぶらぶらすることに意味があるんだ。そんなことは、俺たちの前で悩み事など一つもないような顔して朝比奈さんをいじってるあいつの顔を見ればすぐに解る。 そこらへんで、俺は形容しがたいムズ痒い感覚に襲われて黙りこくった。 古泉はその様子を見て軽く笑い、 「あなたも解っているのか解っていないのか、僕からすれば謎のような人間ですよ。ええ、そうです。どのくらい前からかは知りませんが、彼女は本気で宇宙人やその他の存在と巡り会いたいとは思わないようになってきているんですよ。しかし彼女はそれを決して肯定しようとはしなかった。その葛藤も、時として閉鎖空間になって現れるわけです。あくまで市内の不思議探しの目的は不思議探しのままですし、涼宮さんには何をするにあたっても不思議というのが大前提でした。しかしそれを今回、彼女はあっさりとくつがえしたんですよ。自分の意識にある、仲間と一緒に遊びたいという思いに対して肯定的になったんです。そして逆に、不思議との邂逅ということはだんだんと価値を失っている」 別に悪いことじゃないだろうよ。ハルヒがそんな妙なことに気を取られないよう、まっとうな女子高生として生きてもらうのがお前らの目標じゃなかったのか。あいつがただの何の変哲もない人間になることを、お前らの組織は願ったんだろ。 「あなたはそれで割り切れるのですか」 古泉が俺に真面目な顔を向けた。古泉にしては強引ではっきりした切り口に、俺は少し動揺した。 「このまま、勢いを失ったろうそくの火がぽっと消えてしまうように、彼女が不思議を探さなくなったりしたら。もしそうなったとしたら、彼女が望まない以上、僕や僕の仲間は涼宮さんに与えられた能力を失うでしょうね。《神人》ともお別れです。確かに、それがいいことなのは解っているんです。彼女の精神は安定して、彼女の周りにいるあなたのような人間も静かに過ごすことができますから。しかしね、もしそうなったときに、そんな表面の理性だけでは割り切れない、何とも言えない虚脱感がこみ上げてくるのを僕はリアルに想像できるんです」 そんな未来予知が何の役に立つのか知らないが、俺もたぶんそうなるだろうことは容易に想像できた。あえて口には出さないが。 そんなん、非日常の世界に未練が残らないほうがおかしいのだ。よほど恐ろしい世界であるのなら別として、俺はSOS団での日常をそれなりにエンジョイしているつもりだし、これからもそうするつもりだ。 まあ、これから何が起こるのかは考えたくもないけどな。 しかし何が起ころうと、それを俺の死ぬ直前になればあああれは楽しい思い出だったなあと思い返す自信はある。というより、そうなるように今の俺は努力しなければならんのだ。 「同感です」 古泉が同調した。 「こんな終わり方は嫌だと思いながらも断ち切られることほど屈辱的なことも数少ないですからね。それが嫌だったら、今から後悔しないための努力をしなければならないでしょうね」 そこで会話はとぎれ、俺と古泉はしばらくハルヒと朝比奈さんを観察する作業に徹した。 俺がああこいつも変わったもんだなとか意識外で思っていると、再度古泉が口を開いた。 少し現実的な話につなげますが、と前置きして、 「たとえば今の状況です。見えざる何者か、もう周防九曜と断定してしまってもいいと思いますが、その力によって僕の能力が奪われたり、ポジションを追われたりするのは耐え難いことですよ。少なくとも、僕にとってはね。季節フォルダの話ではありませんが、僕はこのSOS団そのものやその活動にそれなりの愛着を抱いているんです。自分の精神を分析するのはあまり好きではないのですが、おそらくここまで来たらという思いが強いのでしょう。察するに朝比奈さんや長門さんも同じですよ」 外部の力に屈する気がないのは俺も同じである。何より、SOS団には心強い人材がたくさんついてくれている。ハルヒ、朝比奈さん(小)……は微妙だが、他にも古泉、鶴屋さん、『機関』のメンバー、そして共闘宣言をしてきた橘京子。これだけ人材が集まれば周防九曜にも対抗しうる力があるだろう。 俺が橘京子について訊くと、古泉は簡単に答えた。 「橘京子が味方すると言ってきたことについては、既に上から連絡をもらっています。そんなに危惧すべきことでもないでしょう。周防九曜の攻撃の標的がSOS団だけにとどまらないことから、動機も読みやすいですしね。裏はありませんよ」 なぜ解る。奴は朝比奈さん誘拐犯だぞ。 「その事実にばかりにやたら固執するのもいかがなものかと思いますが」 軽い冗談だ。気にするな。 「じゃあ未来人はどうなんだ。あの藤原とかいう、朝比奈さんとは別の未来から来た奴だ。あいつは橘京子とは違う考えのようで、俺たちに加勢するつもりはないらしいぜ」 「それは彼の任務外だからです」 古泉はあっさり答えを出した。 「本来、過去の争いに未来人が手を出す必要はありませんからね。まあ、彼の任務はその余計な手を出して過去を自分の未来にとって都合のいいように変えてしまうことなのですが。しかし今回の場合は彼に命令を出す未来自体がねじれてしまっていますから。未来が無数に存在するために、どれが規定の未来か解らなくなってしまっているわけですね。どれが自分の正しい未来なのか解らないのですから、したがって彼は未来からのいかなる命令に従う必要もないわけです。一種の開き直りでしょうかね。放っておいて、現れた未来をそのまま受け入れるつもりなんでしょう」 そういえば長門も以前同じようなことを言っていた覚えがある。自分は観測者の位置でしかないから、ここの人間を助けるために手出しはしない、と。どうせ昔の話さ。 だがしかし、そう言われると朝比奈さんがこの状況を自分の未来に束縛されることがなくなって自由に行動できるようになったと捉えるのは素晴らしいことのように思えてくる。わざわざ自分で行動を起こす必要などないのに、朝比奈さんはSOS団の、過去の人間のために動く覚悟でいるわけだ。そう考えるとこっちが申し訳ないくらいに思えてくる。 「それが、SOS団に所属している未来人と、そうでない未来人の違いでしょうね。僕はそう考えます」 古泉は達観したような口調でそう言い、晴れ晴れしたような顔で言った。 「SOS団にいれば誰しも変わってしまうものなんでしょう。下地がどんな人間だったとしてもね」 * 次の日曜日である。 どうせ今日も俺が奢りになることは最初から決まり切っているのでハルヒを怒らせるくらい遅刻してやってもよかったのだが、こんな時に限って早く起きてしまう自分が恨めしい。妹は二日間連続で自分で起きた俺が病気にでもなってるんじゃないかと疑いをかける目で見てくるが、そんなもんは無視だ。シャミセンだってたまには運動するような素振りを見せるのと同じで、俺もたまにはそんなことがあるさ。 結論から言うと、この日は本当に何にもなかった。あると言えば長門が消えた時点からあるのでそこの解釈は微妙だが、少なくとも再び佐々木連中と鉢合わせしたり、朝倉が蘇ってナイフを振りかざしたり、九曜が突如として俺の目の前に現れることもなかった。その代わり、長門が現れることもなかったが。 古泉の論説はどうやら真実味を増してきたようだった。 今日のハルヒは不思議探しという言葉を忘れてしまったかのように、朝比奈さん以下二名を引き連れて延々とウインドウショッピングに従事していた。朝比奈さんは買い物どころではないような心なしか青い顔をしていたように見えたが、その心情は理解できないこともない。 また、古泉が途中で、 「涼宮さんは今、不思議探しではなくSOS団の団員といることを楽しんでいるのですよ」 などと知ったような口を叩いてきたが、それは面倒なので流しておいた。そんなことはいちいち口に出して確認するもんじゃない。知らぬ間に、嫌でも自然に精神の中に植え付けられるものなのさ。 昼食は適当に探した中華料理店で食った。ハルヒにおいしいからと言われるがままに注文したら、やたら赤い食い物が出てきやがり、夏も近いために運動もしていないのに大汗をかくはめになったが、それも含めて昨日や一昨日よりは羽を伸ばせた一日だった。 もっとも、そんなもんを伸ばしている暇はない。進展がない場合、それは往々にして水面下で事態が進行しており、気付いたときには手遅れになっていたりする。ガンにしたって、末期で発見されるよりは水面下で進行している状態で見つかったほうが手がほどこせるし助かる可能性も高いだろう。それと同じだ。 そう解っていたのに。 俺も朝比奈さんも古泉も、油断することこそが最大の危険だと解っていながら、この日ばかりは何もすることがなかった。朝比奈さんは未来が封印されているし、古泉も閉鎖空間がなければ業務はない。俺にしたって、向こうからアクションがなければ俺から動くことはできない。誰かに文句をつけられたとして、そんな謂われはないと言い返す自信はある。 しかし、この時ばかりは何か少しでもできることをしておくべきだったと悔やまれてならんのだ。何もできなくても、せめて心持ちをしっかりしておくぐらいのことはしておくべきだったのだ。 明けた月曜日、事態は急転した。
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…━━━━もうすぐクリスマスがやってくる…。 …街中が恋とプレゼントの話題で騒がしい。 ところで…「手編みのマフラーとかセーターとか…貰うと結構困るよね…」なんて言う輩を希に見掛ける昨今…… 実を言うと俺は、そういったプレゼントに僅かながらも、密かに憧れを抱いていたりするのだった━━━━━… 【凉宮ハルヒの編物@コーヒーふたつ】 吐息も凍る様な、寒空の朝… 俺は、相も変わらずいつもの公園でハルヒを待っていた。 つい先程まで、自転車を走らせる事により体温を気温と反比例させる事が出来ていた俺だが、公園に辿り着いてから暫くの間に指先は痺れる様な寒さを感じ始めていた。 (まったく…こんな日に限って待たせる…) 大体…ハルヒの奴はいつもそうだ。 来て欲しい時に来なくて、来て欲しくない時に限って現れる… 「まったく…俺に何か恨みでもあるのか…」 「ん?何か言ったかしら?」 「…………へ?……うおっ!?!」 気付かぬうちに側に居たハルヒに、俺は思わず驚きの声をあげる。 そして…その驚きの声を辛うじて挨拶に差し変えた。 「お…おおはよう!だな…」 「うん、おはよう。…何慌ててんのよ?…………まあ、良いわ。あのさ…これ、前のカゴに入れてって?」 「あ?ああ…」 ハルヒが差し出したのは、見覚えがあるデパートのロゴの入った紙製の手提げ袋だった。 その半開きになった口の中には、いくつかの青い毛糸と…編み針?…そして、編みかけの『何か』が見える…。 「ハルヒ?これ…」 「ああ、マフラー…もう少しで完成なのよ!だから、学校で仕上げちゃおうと思って…」 「ああ、そうか…」 気の無い返事をして見せたものの… 俺は今…… 猛烈に感動していたっ!! だって、そうだろ!? このハルヒに限って『手編み』など絶対に有り得ないと思っていたが、今まさに…その『手編み』のマフラーを制作中なのだ! しかも、この場合のプレゼントの相手は禍いなりにも『彼氏』であるこの俺だろう! この世に生を受けて十余年… 遂に俺の首に手編みのマフラーが巻かれようとしているっ! ところで…コレはクリスマスプレゼントなのか? だとしたら少し気が早い気もするが、セッカチなハルヒなら十分ありえる話だ…。 俺は逸る気持を押さえきれずに、自転車の後ろにハルヒを乗せると力一杯ペダルを踏み始めた。 「ち…ちょっとキョン!何、急いでんのよ?」 「ん?急いでなんかないさ!それより、いつもの販売機に寄るだろ…?」 「え?…まあ、寄るけど…」 「奢ってやるよ!」 「はあ?」 「だから、奢ってやるって!」 「…うん。…………(キョンが元気いっぱいだと、微妙な気分になるのは何故かしら)…」 「ん?何か言ったか?」 「べ…別に何も言ってないわよっ!」 やがて、いつもの販売機にハルヒを乗せて到着した俺は、自転車から降りる瞬間にハルヒに気付かれない様、そっとカゴの中の袋に目をやった。 先程の通りに半開きになった口から、編みかけのマフラーが見える。 俺は、思わずニヤケそうになるのを必死に堪えながら販売機に向かうと、コーヒーとカフェオレを買いカフェオレをハルヒに手渡した。 「ほら…飲めよ」 「あ、ありがと…」 「大変だったろ?」 「え?何がよ」 「編みモノ」 「…うん。まあね…」 「そうか…」 大変だったんだろうな……だが! だからこそ手編みは良いのだ! その『大変』な作業により編み込む想いの数々…これこそが手編みの醍醐味だ…! 俺はコーヒーを一気に飲み干すと、ハルヒを自転車に乗せ、再び全力でペダルを踏み始めた。 学校に着いて…授業が始まっても、俺の意識は黒板へと向く事は無かった。 (今、この時も…おそらくハルヒは俺の為に一生懸命にマフラーを編んでいる…) 考えただけで、顔の筋肉が弛緩む。 そして、振り返って様子を伺ってやりたくなる…が、今は止めておく。 楽しみは後回しにしたほうが喜びが大きいからな。 (さて、今のうちにマフラーを受け取った時に言う言葉でも考えておこうか…) 俺は、ハルヒがどんな顔をしてマフラーを俺に手渡すのか考えてみた。 そして…やっぱりハルヒの顔が少しだけ見たくなって、気付かれない様にそっと振り返えった。 伏し目がちに手元を見つめながら、忙しく編み針を動かすハルヒが見える… もうそれだけで俺は、胸の中にジンワリとこみあげて来るモノを感じていた。 様子から察するに、おそらく完成は放課後くらいだろうか…。 長い一日になりそうだ。 昼休みになっても、ハルヒの手は止まる事は無かった。 俺は何か労いの言葉でも…と考えながらも、(やっぱり、そういうのは後にとっておこう)と思い直して、ただ振り返ってハルヒを見つめるだけにする。 そんな俺の様子に気付いたハルヒが、手元と目線はそのままに俺に語りかけてきた。 「なあに、キョン…どうしたのよ…」 「えっ…ああ、いや…その…毛糸の色、良いな」 俺は上手い言葉が思い付かずに、適当に見つけた言葉を返した。 ハルヒは、そのまま話を続ける。 「そう。この毛糸を見付けた時ね?この色は絶対にアタシに似合うって思ったのよ。 丁度…良さそうなマフラーが売って無くて、がっかりしてた時だったから…すぐに自分で作る事を決めたわ!」 (何……と?) 「あら、キョン?どうしたの?固まっちゃって…」 「……………いや、何でも………無い」 …やっぱり…ハルヒはハルヒだった…。 俺は、今朝からの浮かれまくった自分を思いだし、激しく自己嫌悪に陥りながらも姿勢を元に正しながら冷静に考えてみる。 (そういえば、ハルヒの得意なセリフの一つに「無ければ自分で作ればいいのよっ!」ってのがあったな…) おそらく今回も…街へマフラーを買いに行ったものの、気に入ったものを見付けられずに結局自分で作る事を思い付いたんだろう。 (なんてことだ…まったく…俺ときたら…) やがて…授業が始まっても、俺の意識は黒板へと向く事は無かった。 今朝からの激しい期待感を失った事に因る倦怠感が全身を漂っている…。 ああ…長い一日になりそうだ…。 そして…放課後… 部室に行くと、既にそこには古泉と朝比奈さん…そして長門に…ハルヒも居た。 「あら…古泉君。素敵なマグカップですねぇ…」 朝比奈さんが、古泉の持ってきたと思われるマグカップを、何やら羨ましげに眺めている。 そして、毎度お馴染のニヤケ面で古泉がそれに応えている…。 (ふん、たいしたマグカップじゃ無いじゃないか…) 俺は意味もなく腹立たしくなり、二人の前を軽く挨拶をしてすり抜けると、ストーブの近くの椅子に腰を下ろした。 ハルヒは教室より引き続き、忙しく編み物に興じている。 そして俺の存在に気付くと、先程と同じく手元と視線はそのままに「見てなさい?もう少しで完成するわよっ」と得意気な口調で話しかけてきた。 俺は「ああ…そうか」とそっけない返事をしながら、ストーブに両手をかざす。 そんな俺とハルヒの様子に気が付いた古泉が、ハルヒの方に視線を送りながら「キョン君のですか?羨ましいですね?」とでも言わんばかりに俺に微笑みかけてきた。 俺は「違う違うっ」と手を鼻先で二三度振ると、古泉が「それは残念」と両掌を天井に向けるのを待って、ポケットから携帯を取り出して開いた。 とりあえず…授業中に来ていた分のメールを確認しようとディスプレイを見るが…なんだか面倒だ……そしてダルい…。 俺は何もしないまま、携帯を閉じると机に上体を伏せた。 ふと気が付くと、視界に本を読む長門が映る…。 (ああ…こいつは、こんなダルさとは生涯無縁なんだろうな…) やがて、俺は足元に当たるストーブの暖かな感触に眠気を覚え…そっと目を閉じた。 「…ョン…」 「ん…?」 「…キョン……」 「なん…だ…?」 「起きなさいよっ!バカキョンっ!」 ハルヒの怒鳴り声に慌てて体を起こすと、既に部室の中にはハルヒ以外に誰も居なくなっていた。 「あれ?みんなは…どうした?」 「とっくに帰ったわよ!……それより…ねえ、見て?遂に完成したわよ!素晴らしい出来栄えだと思わない?」 「ああ…まあな…」 「いっその事…もういくつか作って、アタシのブランドでも立ち上げてネットで売り捌いてやろうかしらっ?」 ハルヒは、出来上がったばかりのマフラーを俺に見せながら満面の笑みを浮かべていた。 (手編みは貰い損ねちまったが…まあ、いいか…) 俺は「良かったな」とハルヒに軽く微笑みかけると、立ち上がって帰り支度を始めた。 ハルヒは既に支度を終らせていた様子で、コートをはおり手袋も着けている。 そして…俺がコートを着終わるのを見計らって、出来上がったばかりのマフラーを首に巻き始めた。 (確かに…ハルヒに似合う色だ………あれっ?) ハルヒがマフラーを首に巻き始めたその時…俺は、ある事に気が着いた。 ハルヒの作り出したマフラーは………恐ろしく長い…! 戸惑う俺をよそに、ハルヒは手早くマフラーを巻くと、俺に余った長い部分を差し出した。 「…はい、キョン」 「ん?な、なんだっ?」 「アンタの分よ……」 そう言いながら、ハルヒの顔がみるみるうちに赤くなってゆく…… そして…とりあえず言う通りに、余った分を首に巻いた俺を見て「ふふっ、暖かい?」と照れた様に笑った。 「暖かいが……物凄く恥ずかしい……」 「ええっ?何よ!この場合『恥ずかしい』じゃなくて『嬉しい』じゃないのっ?」 俺達は暗くなり始めた部室棟の廊下を、二人三脚の様にぎこちなく歩く…。 しかし…全くハルヒの奴ときたら、とんでもない事を思い付くものだ。 こんなところを誰かに見られたらと思うと、恥ずかしくてしょうがない……… ただ…マフラーからハルヒの匂いがして、少し幸せだったりするが… 「こらっ!もっと嬉しそうにしなさいよっ!…えいっ!」 「ぐあっ!ひ…引っ張るなっ、首が締まるっ!」 「あははっ!面白~いっ!…えいっ!」 「ぐあっ!し…洒落にならん…」 「…えいっ!」 「グァ……」 「…いっ!」 「…ァ」 「……」 「…」 「」 「なあ、ハルヒ…」 「なあに?」 「ありがとう…な」 おしまい
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※性別反転+ふたなりもの注意 「やめろ!長門!」 そう叫んだ俺に、昨日まで彼女であった彼はいつもの口調で説明を始めた 「現在の貴方の体ががどういう構造か把握しなければならない。 これは統合思念体の意思。戻る為には多分、しなければいけない。規定事項。」 「ぐっ」 戻る為と言われたら多少の事は我慢しなければならないのだろう。 腕を後ろで縛られ、長門に自分の息子を弄られながら俺は頭の中で叫んだ 「なんでこんなことになっているんだ!」 ――起きたら女になっていたってのは最近よく聞く話なんだが・・・ 家出していると思われた息子はそのままだった。 溜め息の後にベットの中で呟いたね 「これなんてエロゲ?」 まあ、見慣れた息子がいることに安心した俺も俺だが、 どう考えてもパーツが多かったので、困った時の長門頼み、だ。 電話をしたところ長門の声が低くてビックリした。ベースの性別は入れ替わってるのか。 その時の会話はこうだ 「この世界は涼宮ハルヒによって改変された」 だろうな。予想していた答えが返ってくるって安心するんだな。 「で、世界中の人間が全員…その…ふたなり…に、なっているのか?」 「………違う。私と統合思念体にふたなりという概念は存在しないが、確実な事がある」 嫌な予感がしたが、今の俺に何ができるってんだ。 携帯から聞こえてくる長門の言葉を聞くしかないだろ? 「世界中の生物の性別が入れ替わっている。涼宮ハルヒも例外ではない。ただし、例外がある。」 嫌な予感は確信に変わっていた。いいから早く宣言してくれ。 「全く予想できなかったイレギュラー因子。それが、貴方。 ここから先は憶測であるが、涼宮ハルヒは貴方を服従させたいと思っていた。 それは最初精神的なものだけであったが、肉体的にも服従させたいと思った。」 「それでハルヒは男に、俺は女に・・・か・・・ハハ」 「貴方に男性器と女性器が複合したのは・・・上手く言語化できないけど、聞いて欲しい 涼宮ハルヒには貴方を服従させたい願望と、貴方に服従させられたい願望があった。 それが強く反映された結果、貴方は両性具有体となった。」 そうかそうか、ハルヒに理性に勝る性欲があったとは・・・驚天動地だ。 「今日は普通に過ごせるようにしておく。安心して欲しい。 ただ、放課後、私の家に来て。今後のことを考えなければならない」 そして、放課後、羞恥心と焦燥感をたっぷり味わって学校を終え、長門の家に行ったらこれだ。 問題は古泉も長門の部屋に居たってことだ。 「お疲れ様です、大変でしたね。まあ、いい経験じゃないですか」 いつもの笑顔がそこにあることに頭痛が増した。先回りをするな。 「何がいいんだ!最悪だろう、ふた…っ両性具有なんて… っていうかちょっと待て!何でお前が俺の腕を縛る!そして服を脱がせるな!」 あっという間、とはこのことだろう。機関の訓練の賜物ですよ、と言っている古泉を尻目に 俺は長門に助けを求めた。そして冒頭の流れに繋がる。 「彼・・・今は彼女。には貴方の拘束を頼んだだけ。 服を脱がせるという指示はしていないが・・感度も上がっている。問題は無い」 問題無いわけが無いだろう。現に俺には問題だらけだ! そんな口論をしているうちに長門の手によって弄られた息子は順調に成長を続けていた。 気持ちよくなって本来の目的を忘れそうだ。誰か助けてくれ。 あれ、長門は助けてくれてるんだっけか?頭の中がゴチャゴチャしてきた・・・ 長門の指はゴツゴツとまでいかない、細い指だったが間違いなく、男の指だった。 自分以外の、しかも昨日までは女だったやつに、息子をしごかれる日が来ると誰が予想できただろうか? しかも古泉は服を脱がせるのを諦めたのか中途半端に俺の制服を脱がせたまま胸を弄っていた。 正直に言おう、気持ちがいい。 「急激に海綿体に血液が集まってきている。質量も」 わああああ!状況を説明しないでくれ長門!いや長門様! 「ちょっ・・・ほんと・・・やめて・・・くっ・・・れ・・・も、無理」 「これはこれは・・・少々早すぎやしませんか?」 いやいやいや、早いとか言うな古泉。胸と息子を同時に攻められたら結構クるぞ。 「無理は無い。通常の男性の感度に女性の感度が加わっている。 原理は不明。でもこれは事実。」 俺の先走りでぬるぬるのそれを扱きながら長門は説明をした。 「男性器の機能はそのままのよう。ただし射精まで観察する。」 絶望とはこのことか。 「やだっ・・・こっち見ん…っ!扱くなっ…やめっ…うああぁっ」 抵抗虚しく、二人に見られながら俺は達した。 射精後、俺は脱力して古泉にもたれかかっていた。これで終わり…でいいんだよな? 自分で慰めた時以上に気だるかったが、なんとか体を起こした。 「う…これ、腕の解いてくれ…」 「まだ終わりじゃない。女性器を確かめていない。」 長門の言っていることを理解するまでに時間がかかった。 女性器を・・・確認?女性器ってあれだよな、入れるところ? 「・・・う、嘘だろ?」 「嘘ではない、この女性器が機能しているか確認しなければならない」 そう言いながら長門は俺の息子の下にある…なんつーか、その、娘に指を進めてきたが、 長門はすぐに突っ込むほど無作法な事はしなかった。 その分焦らすような動きで割れ目をなぞられた。それだけでも快感は大きかった。 「やめ…っろ!!」 抵抗しようにも腕は縛られているし、足も押さえられていてどうしようもないのは解っていた。 そこに追い討ちをかけるように古泉が息子のほうを触ってきた。 「おやおや、前がもう勃ってきてますよ?」 「やっやだっ…さっわんなぁああ!」 俺を抱えている古泉に、人差し指で鈴口から付け根までをなぞられる。 女古泉の白魚のような指でなでられると、視覚的にも感覚的にも効果は抜群だ。 元の世界ではそんな体験無かったからな。感じない方が無理だろう。 「すごい・・・硬いですね・・・もし・・・入れたくなったら言って下さいね。僕の方は準備万端ですよ」 熱っぽく言う古泉に虫唾が走った。まだまだ俺の理性は捨てたもんじゃないな。 そういえば途中から俺を触っている古泉の手は片方だけだった…準備万端ってそういうことか… 「んなこと思っ・・・っひあぁああああぁっ!!!」 反論をしようとした途端長門の指が入ってきた。なんなんだ、お前らグルなのか。 「やぁっ!!な、ながっ…とぉ…やめて!抜いっ…抜いてくっ…れ!!!」 自分の嬌声が恥ずかしい。元の声じゃないだけましだが、自分で出している声に変わりはない。 既にかなり濡れていた所に指を出し入れする長門を制止しようと試みる 「も、ホンと・・・に無理!!指…抜いて…お、お願い…っ」 懇願が効いたのか、長門の指の動きが止まり、ちゅという音で指が引き抜かれる。 古泉の動きも止まった。少し余裕の出てきた俺は二人をたしなめようとした。 「はぁ はっ…も、もういいだろう?いい加減、腕…」 「駄目ですよ。ねえ、長門さん?」 「彼女の言うとおり。女性器の機能はこれだけでは測れない」 絶望だ。流石の俺も気付いた。っていうか気付かされた。 長門君の長門君が大きくなっているんだ、そりゃあ、気付かないわけがないだろう? 「っど…どうしてもか…」 「情報統合思念体の意思は絶対」 「だそうです。流石の僕もこればっかりは手出しできません。」 「っ…!!……はぁ…解った。観念する。」 俺が随分あっさり抵抗を止めたものだから二人の動きも止まった。 古泉との体格差、それに加え男の長門だ、この二人を相手に抵抗してたら体が持たない。 性別が変わっていようが、普通認定された俺が情報統合思念体とやらに勝てる気がしない。 それにここはハルヒの力による世界だろう? 飲み会で酔ってやらかした事は「いやぁ、酒入ってたからさ~」と言う言葉でなんか許されてしまう。 それと同じだ。もし明日目覚めていつもの世界に戻っていて、この二人が何か言って来たらこう言えばいい んだ。 「いやぁ、ハルヒが望んだ事だからさ~」これで決まりだ。出来れば記憶は消しておいてほしいね。 そうと決まれば今を楽しめ、若者。イケメンと美少女と3Pなんてまたと無いぞ、多分。 「っはぁ・・・とりあえずこの腕のやつを解いてくれ。逃げたりしねーよ」 「・・・わかった、もう彼女に逃げる意思は無い。解いても問題は無い。」 「了解しました。じゃあ服も脱ぎますか?」 無表情だが興奮しているらしい長門と笑顔の古泉・・・自分の事で一杯一杯で気付かなかったが二人ともヤル気満々だ。 ちょっと早まったかもしれない。 「いや、服は・・・このままで。」 着衣プレイが萌えるとか言うわけでは無く、自分の局部を見たくなかっただけだ。 息子の方は元気に顔を覗かせているが、通常世界で見慣れてるからな、抵抗は無い。 「じゃあ」 そういって長門は自分のモノを制服のズボンから取り出し、古泉は俺に跨った。 「ちょ、ちょっと待て、一気にやるのか!?」 予想はしてたがちょっと、この光景は正直、引く。 「長く楽しみたいのでしたら僕は後からにしますよ?」 それもそうだな。さっさと終わらせてしまおう。 そう思って体の力を抜いた所を狙って、予告無しに長門が挿れてきた。 「っぐぁ・・!!!!!何か、いえ・・・うあぁ・・・」 「限界。我慢して欲しい。」 「ひっ・・・ぐ・・・ま、まだ動かさないで・・・っくれ!!!」 「・・・わかった」 「早いですね、長門さん。僕も楽しむとしますね。」 「あ、や、やぁああ・・・!!!」 古泉が跨ったまま腰を沈めた。準備万端は伊達じゃなかったようだ。 「っふ・・・キョンくんのが・・・ナカに・・・はぁっ、気持ちいぃ・・・」 お前もそんなに動くな!!また早いとか言われたくないんだよ!俺は! 「・・・・・もう動かしてもいい?」 「っは・・・ながっ・・・ごめ、もう大丈夫っ・・・!!」 「ありがとう」 そう言って長門が腰を動かすとグチュグチュと水音がして、聴覚からも犯されている気分だ。 古泉と繋がっている所からも同じようが音がして、物凄く興奮する。 正直、二箇所で他人を感じるのは凄く気持ちよかった。 長門には奥までしっかり突かれて、古泉の奥を突いて、ほんともうどうにかなりそうだ。 「はひっぁ!!あっ・・・あぁああ!!ひっぐ、うぐ・・・はあああ!!!」 「凄っ・・・いいです、ね・・・そそりますね、その、っかお・・・!」 「やぁ・・・み、見ないでっ・・・!!」 馬鹿みたいに喘いでいたから、古泉の顔がすぐ近くまで来ていたことに気付かなかった。 「泣いちゃうほど、気持ちが良いんですねぇっ・・・」 いつの間にか頬を伝っていた涙を舐められ、そのまま口内も犯された。 やられたい放題だが、古泉の舌は凄く気持ちがいいし、俺もそのまま舌を絡め合わせた。 それを古泉の後ろから見ていた長門がつまらなさそうに 「・・・・・・・・動きづらい」と、呟いた途端一回大きくナカを突かれた後に ずるりと抜かれ、カリで入り口を引っかかれた衝撃で、俺は二回目の絶頂を古泉のナカで迎えた 「っぐ・・・はぁ!!!あ・・・あぁあぁああああっ!?」 「っひあぁ!!キョンくんのっが、ナカでっ・・・ビクビクって!!!っひぅっ」 状況が読めなかった。 なんで俺は古泉が正面にいて、長門が後ろにいるんだ?いつの間に? 「体位を変えただけ。また挿れる。」 そうですか。えーと・・・古泉が下・・・正常位で、長門がバック?これ、なんて言うんだっけと 自分の性に対する知識を確認してる間もなく、後ろから突かれ、胸も揉まれる。 「っく・・・!!あぁ、はぁ・・・はっ」 さっきの余韻が残ったままの後ろからの行為に戸惑いを隠せなかったが 長門の動きはさっきより激しくなく、丁度いい動きばかりで、胸をいじる手付きも気持ちよかった。 「っふ、う・・・あ、はあっ!!気持ち、いいっ!!も・・・もっとぉ!!」 「はぁ・・・長門さんにばっかり集中しないで、僕も、もっと気持ちよくして下さいね」 「う・・・うぁ、うん、ごめっ」 そう言われても動きは制限されているし、上手く体を動かせなかったので、意識を下半身に集中させ 長門の動きに合わせて古泉を攻めることにした。 「んっ、はぁ!あ、そこっ気持ちいい!!もっと下さいいぃ!!」 「あっあっ!!はぁ・・・すげっお前んナカ、ぐちゅぐちゅ・・・してるっ!!」 「貴方のナカも、負けていない」 「んうぅっ・・・」 自分の置かれてる状況を甘んじて受け入れると、結構悪くない。 悪くないどころか、最高だと思えてきた。 流石に俺も疲れてきていたが与えられる快楽には素直で、最初の抵抗はどこへやら 羞恥心の欠片も無い喘ぎ声ばかりあげていた。 そういえば、と限界が近い俺は伝えなければいけない事を朦朧としかけている頭で思い出した 「あっあ・・・長門っ!!あのっ・・・戻る前にっ俺の、きお・・・記憶っは、消してっ・・・くれ!!」 「・・・了解。そろそろ射精をする。」 「あっはぁああああああ!!!!!」 「ひあぁっ!!!!だめっ・・・僕もっ!!あぁああああ!!!!」 ――そして長門は俺のナカで、俺は古泉のナカで絶頂を向かえた。 後の処理は長門が上手くやってくれて、記憶も消してくれるだろう。 全く、ハルヒにこんな願望があったとは驚きだね。その辺はしっかり記憶から抹消しといてくれ。 俺も平和な高校生生活を満喫したいからな。 そう思いながら俺は意識を手放した。 ・ ・ ・ 「ありがとうございます、長門さん。 それにしても上手くいきましたね、長門さんが情報操作した世界だと気付かれずに事が運びました」 「あれ以来、小規模な情報操作は簡単だと気付いた。私も楽しかった。」 「くれぐれもご内密に。よければまたご一緒させて下さい。」 「・・・私はたまに情報操作をしながら、彼の性的欲求を解消していた。 それが古泉一樹にばれたのは不覚としか言いようがない。」 「ハハッ、機関の情報網はすごいでしょう。そのおかげで僕は彼の淫らな姿を拝める。 素敵なギブアンドテイクですよねぇ。」 「・・・・・・・・・・いいアイデアを貰えたから、構わない。」 「彼の記憶はどうするんですか?」 「このことに関する記憶や思考は全て消去する。今までもそうしてきた。」 「なるほど・・・僕の記憶は消さないんですよね?長門さんならば僕にばれた時点でそうしていたはずですから」 「そう。たまには罪悪感を背負う人間を増やしてもいいと思った。」 「ハハ、罪悪感ですか。確かに一人で抱えるには大きいですねぇ、この罪悪感は。」
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次の朝 教室にて ハルヒ「おはようキョン。早いわね」 キョン「お、おう…」 ハルヒ「進路希望調査、書き終わった?」 キョン「……残念ながら」 ハルヒ「……ふーん。ま、そういうと思ってたわ ……よし、あんたには特別サービスよ」 キョン「何だ?」 ハルヒ「今日の放課後、マンツーマンで進路考えてあげる?」 キョン「はぁ?」 キョン「いらん」 ハルヒ「いらんって…、これはあんたの問題なのよ?しかも人生を左右するかもしれない問題…。 あんたそれ分かってる?」 キョン「分かってる分かってる」 ハルヒ「分かってないわね」 キョン「…もういいよ。……あんま寝てないんだから騒がないでくれ」 ハルヒ「な!なによ!その言い方…!」 俺机に突っ伏すと、昨日の疲れがあったのかそのまま意識を埋没させた。 俺はどこにでもいる普通の高校生だ。それ以上でもそれ以下でもない。 お前や長門みたいな特別な人間じゃないんだ、ハルヒ。 俺は平凡な職につき、平凡な家庭を築き、平凡な生活を送る。 それでいい。 進路なんて今考えても仕方がない。 この時の俺はそう思った 俺は眠たい授業をのらりくらりとかわし続け、気付けば放課後だ。 SOS団部室に行くと、パソコンを難しい顔で眺めるハルヒと、窓際で置物のように本をよむ長門。ボードゲームをがちゃがちゃとイジる古泉に、美味しそうなお茶を淹れる朝比奈さん。 なんら変らない毎日の連鎖。このなかに人生のターニングポイントなんてものが存在しているとは全くもって思えない。 俺は思う。つまらない毎日の連鎖はごめんこうむるが、楽しい毎日の連鎖は素晴らしいものじゃないか。 SOS団がくれる非日常。それは迷惑なものだが、正直スリリングなんだ。俺の中で。 連鎖は連鎖でも、楽しい連鎖ならいいじゃないか。 俺はこのSOS団が紡ぐ連鎖の中に、ずっといたい。 ハルヒ「………!」ガタン キョン「…どうした、急に立ち上がったりして」 ハルヒ「…私、用事があるんだったわ!」 キョン「ま、またかよ!」 ハルヒ「ごめん!あたし帰るね!」 古泉「はい、お気をつけて」 ハルヒ「あとキョン!」 キョン「うん?」 ハルヒ「明日暇でしょ?」 キョン「あぁ」 ハルヒ「じゃあ明日図書館に来なさい! 進路指導してあげるわ!!」 キョン「行かんぞ」 ハルヒ「図書館前に11時に集合ね!」 キョン(休みの日にハルヒに絞られにわざわざ図書館まづ行くやつがどこにいるんだ) ハルヒ「あたしは行ったわよ!じゃ、急いでるから!」 バタンッ キョン「俺は行かんって言ったからなー!?」 キョン「……なんであいつはあんなにも勝手なんだ」 古泉「それが彼女の魅力でもありますね」 キョン「……ごめんだね」 みくる「……それにしても涼宮さん」 キョン「ん?」 みくる「すっごく眠そうにしていたような……」 長門「………」 みくる「あ、あの、パソコンで何してらっしゃいましたけど……」 長門「………(じーっ)」 みくる「!……い、いえ、なんでもありません…」 キョン(図書館…か) 次の日 キョンの妹「キョンくーん!おひるだよー!」 キョン(……お昼?) キョンの妹「おーきーてー!」 どすんどすん!! キョン「ぐおあ!……は、腹の上で……」 キョン(そうだ、今日は休日か………ん!?)ガババッ キョンの妹「ひゃあ!」 時計「チッ、チッ、チッ、チッ」 キョン(まだ朝の10時か……。 いまから光の速さで準備すればまだハルヒとの約束に……) キョンの妹「キョンくんいーたーいー!急に起きないでー!」 キョン(いや、でも俺…約束はしなかったよな…?) キョン(そうだ。あいつがいつものように勝手にとりつけただけじゃないか) キョン(行く義務はないよな……) キョン「……寝る」ドサッ キョンの妹「ちょっと、キョンくーん!」 キョン「まだ昼まで二時間あるだろ?二時間たったら起こしてくれ」 俺のターニングポイントはまさに、この時だった ……… …… … 時計「チッ、チッ、チッ、チッ」 キョン「…………」 キョン(………気になって寝れん) キョン(……12時か。 ハルヒのやつ、帰ったのかな?) キョン(………) キョン(………) キョン(………) バッ、ババハッ キョン「いってきまーす」 この日から、俺の生活はがらりと一変した。
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涼宮ハルヒの終焉 プロローグ 学年末の幽霊騒動も終了し、なんとか留年を避けた俺は新たな2つの懸案事項を抱えていた。 昨日まで冬休みだったのだが結局ハルヒに振り回されすぐに終わっていた。 なぜか俺の目にはハルヒが無理しているように見えた、今度古泉にでも聞いてみようと思う、きっと気のせいだと思うが…。 俺が抱えている懸案事項とはそのことではない。 1つは今日は始業式だ。そして昨日は入学式だったのである。 ということはSOS団に新入部員が入るかもしれないということなのである。 まあどうせ傍から見たらただのアホな団体にしか見えんだろうから誰も入らんと思うが… しかしハルヒのことである、どうせ1年生全員をSOS団にいれるわよとか言い出すかもしれない。 1年前の春のようにバニーガールでビラを撒き始めるかもしれない。 また朝比奈さんのバニーガール姿が見れるということはうれしいのだが、 入学して早々美人二人がバニーガール姿で入団をしろと言ってくるんだ、 断る理由はどこにも無い、何か変な勘違いをして1年生男子全員が入団してきても何もおかしくは無い。 ハルヒは喜ぶだろうが、ハルヒを除く4人の団員は迷惑するに決まっている。 ハルヒがそんなことを言い出したら確実に阻止せねば。 そして2つ目始業式といえばクラス変えだ、 俺はきっとハルヒに望まれ同じクラスになるんだろうが…、また面倒なことになるんだろうと思う。 ここで思い出して欲しいのだが俺には中学からの友達と1年のとき同じクラスだった奴等と長門と古泉ぐらいしかまともな知り合いはいない。 そしてハルヒのとんでもない行動のせいで中学からの友達からはまるで山から下りてきた雪男を見るような目で見られている。 当然全然知らないやつらからもそんな目で見られているのだ。 もしハルヒと全然知らないようなやつしかいないクラスになってしまえばもう暗い2年生を送るしかあるまい。 せめて谷口や国木田も同じクラスになるようにしてくれないか?ハルヒ などと考えつつ俺は教室のドアを開けた。 第一章
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月曜の朝はいつにも増してうだるい朝だった。俺は基本的に冬より夏のほうが好みの人間だが、こんなじめじめした日本の夏となると、どちらが好きか十秒程度考え直す可能性も否定できないくらいに微妙である。途中で出くわした谷口や国木田とともにハイキングコースを登頂したが、校門に辿り着く頃にはシャツが既に汗ばんでいた。ハルヒの判断は懸命である。長門がいない上にこの暑さでは、映画撮影などやってられん。 二年の教室に入って自分の席に着くと、後ろでスタンバっていたハルヒが肩を叩いてきた。 「ねえキョン、夏休みにやらなきゃいけないことって何だと思う?」 「ああ、そういや、もうそんな季節だな。俺にとってはどーでもいいことだけどよ」 「何よそれ」 「失言だ。忘れてくれ。それで何だって?」 俺は教室内を見回しながら訊いた。今日もとりあえず危険人物はいないが、このままいったら夏休み中の俺はブルー一色に染まること間違いなしだ。 「夏休みにやらなきゃいけないことよ。時間は刻一刻と過ぎていくんだから、常に次のことを考えてないと生きていけないわ」 「次のことまで考える余裕があるなんてうらやましいね。そんなもん、夏休みが来たときに考えればいい」 ハルヒは俺の意見を無視して一人で目を輝かせ、 「とにかく合宿は不可欠よね。てか、決まっちゃったし。そしてプールと花火大会とバイトと……」 「あと宿題な」 「何よそれ、夏だってのにシケてるわねえ」 そんなこともない。永遠に終わらない夏とどっちがいいかって言われたら俺は迷わず宿題を選択するぜ。 「やっぱ夏よ、夏! 高校に入るまでこんなに夏休みを待ち遠しく思ったことなんてないわ」 「へえ。高校の夏休みってのはそんなに面白いもんだったか?」 ハルヒは俺の問いに自然に――本当にごく自然に――答えた。 「SOS団で騒げるんだもん。楽しいに決まってるじゃん!」 俺は一瞬言葉を失って、妙な空白があった後にああそうだよなと相槌を打った。俺の笑顔は引きつっていたことだろう。 古泉の言っていたことはそんなに的外れではないのかもしれなかった。 楽しさの対象が宇宙人でも未来人でも超能力者でもないことを、ハルヒは自ら断言したのだ。悪いことじゃない。俺の目の前でハルヒが屈託なく笑ってやがるのも一年前にはありえなかった光景だと思えば、ハルヒの状態は確実によくなりつつあるということになる。 そこで俺ははたと考え込む。 しかしそれは、いったい誰にとってなんだろうか。ハルヒの精神が落ち着いてきていい状態だというが、それは誰にとっていいんだ? 俺にとってか。それともバイトが減る『機関』にとってなのか。 ハルヒがどこにでもいるフツーの女子高生になっちまうことを俺は本当に望んでいるか? 俺だけではない。朝比奈さんも古泉も、本当にそう望んでいるのだろうか。もし個人個人の持つ雑多な事情から解放されたとしたら、その答えは変わるかもしれん。少なくとも古泉はそう言っていた。 SOS団という謎の団体に俺は何かを感じていたのだった。もちろんそのSOS団は休日に遊ぶ仲間の集まりなんかではない。宇宙人の長門と未来人の朝比奈さんと超能力者の古泉と、ハルヒと、そして俺がいる団体こそがSOS団なのだ。いつの間にヒマな高校生の集まりに成り下がっちまったんだ。 そう思ってから、俺はまた頭をかきむしった。たった今、俺は、成り下がるという言葉を無意識に用いて、休日に遊ぶ仲間の集まりという意味でのSOS団を否定してしまっていたのだった。肩書きはどうあれ朝比奈さんと長門と古泉がいればいいという、そのきれい事のような考えだけでは割り切れないような感情が俺の奥底に、確かにあった。 ハルヒは何の迷いもない顔をしている。ただ、その銀河群が入っていそうな瞳の輝きが少し薄れているだけだ。惜しみなく部室専用スマイルをふりかけるハルヒを、俺はただぼんやり眺めていた。 * ハルヒの一年時のメランコリーをリアルな感じで悟りつつある俺は、結局昼休みまで動く気力が出なかった。 一年前の春、何で宇宙人に固執するんだと訊いた俺に、そっちのほうが面白いじゃないのと当然のように答えたハルヒはどこへ行っちまったのか。窓の外を眺めているとなぜか思考が巡りに巡ってしまうようなので、俺はシャーペンをつかんで黒板に焦点を合わせ、授業を受けるべくしていた。 昼休み、俺が後ろを振り向くとハルヒはすでにおらず、おそらく学食か購買へ行ったものと思われる。 俺もそろそろ部室に行かねばならんだろうと思っていると、谷口と国木田が近づいてきた。 国木田は俺の顔をまじまじ見て、 「キョンさあ、最近疲れてるのかなあ」 唐突な指摘の質問に俺は多少びっくりしながら、 「そうかもしれんな。ハルヒといれば誰だってこうなるぜ」 もっとも昨日今日の疲れはハルヒパワーが全開であるための疲れではないというのは胸の内に収めておく。むしろハルヒが騒ぎ立ててくれていたら俺の疲れも多少は癒されていたというか、俺の心のわだかまりも忘れることができたのかもしれん。 谷口が俺の頭をポンポンと叩いてきた。 「まったく、うらやましい野郎だ。たとえ相手が涼宮だとしても、女と一緒にいて遊び疲れたってのは贅沢の極みをいく悩みだぜ。ああくそ、俺、もういっそのこと涼宮でもいいから狙っちまおうかなあ。おめーら、まだ付き合ってねえんだろ?」 何を血迷ってるんだ。他の女なら俺が紹介できる限りでしてやるから、ハルヒだけはやめておけ。あの狂気にやられて、生活を狂わされちまった実例がお前の目の前にいるんだよ。ハルヒは常人が相手にできるような奴ではない。奴と同じくらい狂ってる人間か、あるいは釈迦並の寛大さを持ち合わせた奴じゃないと無理だ。 「いいや、そんなことはない。あいつだって一応は女だ。ひっくり返せばけっこう常識的な人間だぜ。これはなあキョン、涼宮と五年間も一緒のクラスでいる俺の境地に達したから解ることなんだ。あいつは、けっこうまともな人間だ」 まともな人間ね。谷口の言葉すら煩わしく感じた。そんなことは俺だって知ってるんだよ。 そりゃよかったなと適当に返事をして、俺は弁当箱を持って立ち上がった。 「あれキョン、教室で食べないのかい?」 「部室で食うよ。悪いな」 とにかく今はハルヒのことで頭を悩ませている場合ではない。いや、そういうと何か変わりつつあるハルヒに後ろめたいのだが、俺の頭のデキは誰もが知るとおりである。そんなたくさんのことに気を回していたらパンクしちまう。 チープでありきたりな描写で申し訳ないのだが、俺にはこの時すでに予感があった。 窓の外の世界が、二年五組の風景が、ハルヒが、もっと言うと俺の目に入るすべてのものが妙な嘘っぽさを纏っていた。平べったい風景となって不協和音を奏でていた。嵐の前の静けさというアレである。 そしてまた、その静けさは嵐によって吹き飛ばされるのである。空虚な時間は現実のどんな出来事によってでも、軽く夢世界のものになり得る。 俺は弁当を持って部室に向かった。心臓が知らぬ間に激しく鼓動していた。理由は解らん。 長門のクラスをのぞいてみたが、やはりというか、長門の姿は発見できなかった。 最初は歩いていたのがやがて早足になり、小走りになったところで部室に到着した。部室棟二階コンピ研の横、木製の扉。 そこで、地獄を見た。 * 俺は愕然とした。発する言葉もない。口をあんぐりと開けて首を回し、最後には頭を抱えて床に崩れ落ちた。 予感は当たった。当たってしまった。 ハルヒの精神が変わりつつあるという俺の憂鬱の発生源は瞬く間に消え去って、代わりに暗い未来予知が的中してしまった予言者のような沈黙が俺の心を支配した。 俺に否はないと断言できるが、それでどうしたという話である。現実は淡々と、ただし深く突き刺さる。 部室から、朝比奈さんのコスプレ一式がハンガーラックごと消え失せていた。 誰かが動かしたのだろうか。まとめてクリーニングに出したとしてもハンガーラックまでなくなることはないだろうし、俺はそんなのが楽観論にすぎないことを知っている。もしそのクリーニング説が本当だったのだとしたら、俺はそのクリーニングに出した奴をすぐさま訴えてやろう。精神衛生上よろしくないにも程があるぜ。 何をするともなしにゆらゆらと部屋の中を徘徊する。 ハードカバーがどっさり入っていたはずの本棚はがら空きである。遠い昔の記憶のような錯覚を受ける先週の金曜日、長門がいたときにやった七夕の竹だけはいまだに部室の窓にもたれかかっているが、長門と、そして朝比奈さんの願い事が書かれた短冊だけはなくなっていた。朝比奈さんが長門と同様の現象に見まわれたという証拠だった。 さらに、横の棚には急須がない。ポットだけはあるものの、よく見ると棚に乗っているのは茶葉ではなくてインスタントコーヒーである。普段は誰が淹れているのか知らんが、朝比奈製のお茶よりもおいしいようなことはないだろうね。ハルヒでも俺でも古泉でも、朝比奈さんのスキルはそう簡単に獲得できるものではない……。古泉? ハッとして振り向いた。そこには古泉が持ち込んだ古典的ボードゲームの数々が―― あった。 俺は深く息を吐いた。消えた長門の例からすると、そいつにまつわる物体がなくなっていると本人も消えているらしいから、古泉がこよなく愛するボードゲームがあるということは、古泉はまだ消えていない可能性が高い。 カチャリ。 突如、ドアノブを回す音がして部室の扉が開いた。 「やあどうも」 軽快を気取るような声をして入ってきたそいつには、いつものハンサムスマイルに少し苦笑が混じっている。すべてを知り合った仲間に自らの失態を告げるときのような、自嘲めいた微笑みである。 「よほどあなたに連絡を取ろうかと思っていましたよ。もうその必要もないでしょうが。さて、お気づきですか?」 ああ。嫌なことにたった今気づいてしまったところだ。 「ええ、そうです。とうとう二人だけになってしまいました」 その言葉はどう解釈すればいいんだろうかね。場合によっては殴るぜ。 「冗談です」 古泉は肩をすくめるお決まりのポーズを取り、団長机に置かれているデスクトップパソコンに歩み寄った。 俺は古泉にうさんくさい視線を投げかけながら、 「何が起こってるんだ。朝比奈さんもいなくなっちまったのか?」 「ええ、どうやらね。それに朝比奈さんだけではないようです。僕の組織が監視していた何人かの未来人が、今朝を持って一度にいなくなりました。ついでに橘京子の組織からも連絡を受けました。藤原という未来人もいなくなったらしいですよ。情報統合思念体製のインターフェースが消えたときとまったく同じ状態です」 しかしそこは未来人だから、未来に帰ったとかそういうことはないのかな。 「あなたは朝比奈さんから何を聞いたんでしょうか。時間平面がねじ曲がっていてTPDDの使用は不可能、と朝比奈さんは言っていたように思いますが。未来にも過去にも逃げることはできません。朝比奈さんも、まず間違いなく誰かに消されたんですよ。おそらく、周防九曜にね」 そんくらい俺も解ってる。 「じゃあ仮に犯人を九曜だとしても、あいつはいったい何を企んでるんだ。宇宙人を消し、未来人を消してさ。世界征服か?」 古泉はデスクトップパソコンを操作して立ち上げてから俺に目を戻すと、さあどうでしょうと首を傾げた。 「周防九曜が犯人であるということに異論はありませんが、目的がそんな単純なものだとは信じがたいですね。そうだったら、長門さんが以前やったように世界改変を行えばいいだけの話です。重ねて言いますけど、今回のこれは世界改変ではありませんよ。元の世界から宇宙人や未来人を引き抜いただけです」 じゃあ何のためにやったんだ。目的もなしに行動するような奴は少ないぜ。あいや、九曜ならその少ないの中に入るかもしれんが。 「目的は僕には解りませんね。涼宮さんに近づこうとしているのか、SOS団を崩壊させようとしているのか、あるいは邪魔者を排除してから何かをするつもりなのか。どちらにしろ、どうせ僕たちには対抗策などありません。長門さんや朝比奈さんを活殺自在にできるような存在にはね」 「お前にしては珍しく悲観的な意見だな」 「そうでしょうか。これも一種の作戦だと思いますけど。僕だったら無駄な対抗策を打って時間稼ぎをするよりも、残されたヒントを使って謎を解き明かし、新たな可能性を模索するほうを選択しますよ」 そう言って古泉がワイシャツのポケットから取り出したのは紛れもない喜緑メッセージである。生徒会議事録の最終ページで見つけたその文章には何かのパスワードが書かれているが、それはとうとう答えが解らなかったんじゃないのか? 土曜日に貸してやったのに解らないって言ってきやがったじゃねえか。 「そんなことはありません。この世にはね、深く考えてみれば解ける問題と絶対に解けない問題があるんですよ。たとえば宇宙の真理を一般人に答えろと言ってもまず無理でしょうが、この地球上で証明されている簡単な計算なら一般人でも……」 いいから解答が出たのか出ないのか答えやがれ。お前と話していると無駄な思考能力ばっかりついていって、肝心の答えが見つからないような気がしてならん。 「申し訳ありません。答えというか予測ですが、たぶん正しいというものなら出ましたよ。もちろん、このパスワードの在処がね。」 古泉が黙ってデスクトップパソコンを指さしているので、俺は近づいてのぞき込んでみた。 画面の真ん中にキテレツなマークがあって、ページにはメールアドレスとカウンタだけが取り付けられている。モニタが嫌々表示しているように見えるそれは、SOS団のサイトページだった。 「これか?」 と俺。 「そうです。ここのページは過去にも疑似情報操作のようなものを受けていますからね、もしやと思っていましたが、当たってしまいましたよ。長門さんが消される直前か消された後か、どちらにしろ仕掛けを作りやすかったんでしょう。ほら、カーソルをここに当てると」 古泉はカーソルをハルヒ作のSOS団エンブレムに乗せた。すると矢印のカーソルが手の形のカーソルに変わる。なんと、いつの間にかクリックできるようになっていた。ハルヒが俺にやらせずにこんな芸当ができるとは思いがたいし俺はこんな仕様にはしていないし、第三者の仕業で間違いない。 クリックすると案の定パスワード入力ページが現れた。password? と書かれているだけの、質素なページ。 「とまあ、この画面までは昨日までに『機関』のメンバーで考えて判明していたんですが。ただしこのパスワードというのがどうにも解らなくてね。このコピーには『password・すべての始まりを記せ』と書いてあるもので、ビッグバンやら宇宙やら、そのままこの文を入力してみたりもしたんですが、どれもダメでした。ちょっとこれは僕にはお手上げですね」 よくここまで辿り着いたもんだと感心していたが、それを聞いて呆れ返ったね。 すべての始まり? そんなもんは最初っから解っている。 それはビッグバンなんかじゃない。宇宙意識があったことでも、未来から人間がやってきたことでも、赤玉に変身する超能力者が現れたことでもない。少なくとも、俺にとってはな。 喜緑さんのこのメッセージは他の誰に宛てられたものではないのだ。生徒会長でも長門でも朝比奈さんでも古泉でもなく、そしてハルヒにでもない。俺が見つけたのだから、おそらく、俺が読むことを想定して書かれたものだ。 そうとなったら答えは一つである。すべての始まりは、こいつと出会ってからさ。 俺は古泉をどかしてキーボードに手を伸ばすと、その名前をタイプした。 つまり、『涼宮ハルヒ』と。 エンターキーを押すと、ロックが解除されたというメッセージが流れて別のページにジャンプした。 「ほう、さすがですねえ。なるほどあなたにとっての始まりは涼宮さんですか。なるほど、周防九曜や他の宇宙意識には抽象的で理解できない質問と解答です」 古泉がほざいているが、無視して液晶を食い入るように見つめる。ロードの時間がもどかしい。マウスを指でカチカチ叩く。とっととしろ。 出た。 『橘京子を連れてこの場所へ。わたしはここにいる』 それだけだった。ページのほとんどが白で埋め尽くされており、その真ん中あたりにかのような文字が活字体で羅列されていた。何だこれは。 わたしはここにいる。 ハルヒ(実際には俺)が四年前、東中のグラウンドにラインカーで白線引いて書いたアレだ。どっかの宇宙に宛てた奇妙な絵文字の意味がこれだったらしい。 俺は長く息を吐いた。間違いない。このメッセージは長門が作成したものだ。わたしはここにいる、と書かれていると教えてくれたのは他ならぬ長門だったのだ。 しかし、どういうことだ。 わたしはここにいる。 そして、橘京子。古泉とは異なる力を持つ超能力者。今回は共闘宣言をしてきたが、信用しきれない部分もある。そいつを連れてこの部室に来いと言うのか。意味が解らん。 もう少しヒントが欲しかった。そうでなけりゃ、パスワードなんかいちいちかける必要もなかろうに。スクロールしてみたが隠し文字はなかった。 「これだけですか?」 俺に訊くな。 「しかし、これだけでも取るべき行動の情報は得られましたね。長門さんらしいと言うべきか、最低限でも必要なことだけは明記してくれています。二文目はオマケのようなものですよ」 「橘京子をここに連れてくるってか」 あまり気分のいいことではなかった。当然気乗りもしないし、疑心暗鬼にさえ陥るかもしれない。 なにしろ、橘京子はついこの間まで敵対していたのだ。古泉の組織とは平行線で交わることはないなどと抜かしてやがったが、今になって急に考えを変えてきた。 しかし、さすがにほいほい信用できるものではないね。SOS団の命運がかかっているのだから、ついこの間までの敵を味方としてアジトに連れ込むのはどうかと思うぜ。 「あなたはそう言いますけど」 古泉が反論した。 「昔の立場関係というのは現在になってみればまったくどうでもいいことなんですよ。大切なのは現状です。特にこの場合はね。橘京子が味方になってくれる。客観事実だけを受け止めるのなら歓迎すべきことじゃないですか」 「確かにそうだけどな。けど俺が言いたいのはそこんとこじゃないんだ。土曜日に橘京子と会って話して、SOS団側につくって言われた。そんでもって今日はこのメッセージを見つけたんだ。橘京子を連れてこいってな。まるであいつが味方なのが前提みたいに書かれてるじゃないか」 「なるほど。それで」 言わなくても解るだろう。都合がよすぎるんだ。 古泉は数秒だけ首を捻っていたが、やがて微笑に戻るとどうでしょうねと言った。 「都合がいいのはあなたの仰るとおりですが、それはあくまで都合という観点で見たらの話です。あなたは、その都合というのは低確率が連続する問題だと信じているようですが、そうでなかったらどうでしょう。確率など関係なく、誰かの手によってそうなるように仕組まれていたとしたら」 「何が言いたい」 「これは僕の予想に過ぎませんが、橘京子の一派は何かをつかんでいると思うんですよ。もちろん彼女のつかんでいる情報はこちらには回ってきませんし、それはあくまで敵対組織同士だからです。ただ、彼女はそれをつかんだ上で合理的に行動している。SOS団に味方するというのも何か意味があるからです。おそらく、彼女はこのメッセージがなくとも、真相を知っていたんですよ。この事件を解決するためには自分の存在が必要不可欠だとね。たぶん土曜日、あなたと会って話す前から」 俺は土曜日の橘京子を思い出していた。 そういえば奴は佐々木に謝罪していたな。俺たちと会うために時間とルートを調整させてもらっていた、とか。さらにあの日の目的は俺たちに共闘を宣言することにあったといっても過言ではないだろう。 それもすべてを見越しての行動だったのか。ということは、あいつは長門がどんな目に遭っているかの詳細を知っていたということなのか。土曜日の時点で。 「いえ、これはあくまでも僕の推測に過ぎませんから。あまり深く考えないで下さいよ」 「そりゃいいが、どっちにしろやることは決まったな。橘京子に連絡を取るんだ」 「それが……」 古泉は困ったような顔になった。 「できないんですよ」 「…………何っ?」 できない。橘京子と連絡を取れないってのか。おいおい、どういうこった。 「彼女たちの組織に実体はありません。ですから正確に言えば組織ですらないんですけどね。いつも、ばらばらなんですよ。僕たちの『機関』に情報を提供してくれる場合でも匿名性のある手段しか使いませんからね。もちろん、自慢ではありませんが僕や『機関』は彼女の携帯電話の番号は知りませんし、どこに住んでいるかも知りません」 そんな……。じゃあ、あいつをメッセージ通りここに連れてくることなんか不可能じゃないか。 俺が顔面蒼白なのに比べ、古泉はずいぶんと落ち着き払っていた。おかしいくらいに。 「ですから、彼女たちからやって来るのを待つだけです。彼女は長門さんが作ったと思われるこのメッセージは知らないでしょうが、もっと核心に近いことをつかんでいるはずです。おそらく、土曜日にあなたの前に現れたように、何か必要があったらここにも現れるでしょう。自分が僕たちにとって必要不可欠の存在であるということも見通しているでしょうから。ただし、それがいつかは解りません。ですから、僕たちはひたすら待つわけです」 何をお前、そんなすがすがしい顔してやがる。いつかも解らねえ救助を待ってたら、大抵はのたれ死ぬぜ。そんなのは、白骨死体となって発見されたあまたの冒険者が証明してくれてるだろうが。それでもいいのかよ。俺は嫌だね。 「ふふ。どうしてだろう、不思議と怖くはないんですね。こういうスリルに憧れていたのかもしれません。――あなたは『二年間の休暇』を知っていますよね」 「いきなり何を言い出しやがる」 「本のタイトルですよ。『十五少年漂流記』とも呼ばれますが」 「それがどうかしたか?」 「分析してみると、僕の感情はあれに近いものなのかもしれないと思いましてね。彼らが辿り着いたのは孤島ですから、まっとうな手段では脱出不可能です。最終的には外部の人間に発見されて助けられるわけですが、僕のおかれた状況もちょうどそんな感じだと思ったんですよ。推察を巡らして手を尽くし、自分の力ではどうしようもないと悟ったとき、僕は、以前は、絶望するに違いないと思っていました。しかし意外でしたね。違いました。全然そんなことはない。むしろ気が晴れましたよ」 気でも狂ってるんじゃないかと言いかけてその言葉を呑み込んだ。マジで気が狂ってるんだろう。俺か古泉か、どっちかがな。 古泉はしばらく部室の窓の外を眺めていたが、やがて振り返ると真面目な表情に戻っていた。 「長門さんが突然消えて、その原因がはっきりしないまま朝比奈さんまで同様の現象に見まわれてしまったらしい。いや、宇宙人と未来人が、と言ったほうがいいでしょうね。そこまでいったら次に何がくるか、あなたなら解りますよね」 「超能力者か」 「あるいは、あなたです」 古泉のいつになく刺々しい声が冷酷に響いた。俺が目を逸らすと、古泉は真面目な話ですよと言った。 「土曜日にお話しした僕の最後の仮説――覚えてますね。僕たちは何者かに消されるのを待つ身なのかもしれない。それが、もしかすると真相なのかもしれません。時間の差はあっても、僕もあなたもやがては消されます」 古泉の複雑そうな横顔を、俺はぼーっと眺めていた。 超能力者が消えるなら橘京子も一緒に消されちまうんじゃないかと言おうかと思ったがやめた。そんな仮説に意味はないし、そういう仮定をする必要もない。古泉の言うとおり、橘京子が現れるのをただ待っているしかないのだ。先方が事情を承知しているなら、後は奴の慈悲深さに期待するだけである。しかしきっと、いるかも解らん神様よりはアテにできるだろうよ。いや微妙なところか。 「じゃあ」 俺がしばらくだんまりをやっていると、古泉がドアに向かって歩き出した。ドアノブに手をかける。 俺は咄嗟に口を開いた。 「古泉、てめえ明日もここにいろよ。消え失せたりするなよ」 一瞬古泉の手が静止したが、それでも特に答えることなく扉を開けて出ていった。その背中を見送って、しばらくSOS団サイトを表示しているパソコンを眺めていた。やがてチャイムが鳴ったので帰ろうかと思ったところで、弁当を食っていないのに気づいた。 * 「遅かったじゃないの。あんた昼休み中何やってたのよ」 授業開始直前にスライディングセーフを果たした俺は、特に何もすることなくそのまま五時限目六時限目をやり過ごした。もう少ししたら授業も夏休み前モードに切り替わって楽になるのだが、今のところは追い込み漁的な授業が続いていてちっとも心が安まらん。俺の場合、課外活動とその他の時間が一番疲れるのだから、授業中は睡眠学習を許可するよう教師も取りはからうべきである。 疲れという概念を本気で知らなさそうなのはハルヒくらいであって、俺の苦労も知らないハルヒの問いに、俺はだれた声で部室とだけ答えた。 「お前は何やってたんだ、昼休み中」 何となく訊いてみる。 「学食から帰ってきたら、ずっと窓の外眺めてたわ。気分で」 「何考えてたんだ。明日の天気か?」 「合宿のことよ。何して遊ぼっかなーと思って」 明日の天気と答えられても困るが、合宿のことと答えられても俺はなんだかため息を吐きたい気分だった。UFO召喚の儀式について、と答えられたら反応が違っていたかもしれない俺を一瞬思って、何を血迷っているのだと頭を振った。 「話は変わるけどさ」 俺はそう切り出し、 「去年の文化祭のときの映画撮影を覚えているよな。朝比奈さ……じゃない、どんな映画だったか言ってみてくれないか?」 「映画撮影?」 俺の予想が正しければ、ハルヒは間違ってもみくるちゃん主演の、とは言い出さないはずである。古泉の仮説通りなら、朝比奈さんはもとからこの世界にいなかったことになっているのだ。いないはずの人物が映画の主演をできるわけがない。というか、朝比奈さんがいなかったらハルヒは映画撮影なぞをやる気はなかったかもしれん。 やはり、ハルヒはいぶかしげな顔をした。 「何よそれ。そんなのはやった覚えがないわね。あ、でも面白そうじゃない。映画撮影かあ。なあにキョン、今年の文化祭か何かで映画を発表でもするつもりなの?」 「別に」 適当に受け流す。 どうやら古泉の仮説は正しかったらしい。朝比奈さんは長門と同じように消えちまっているという証明である。 俺は質問を変えた。 「じゃあ、SOS団の団員は最初っから三人だけだったかな。俺とお前と古泉。違うか?」 「何なのよ、キョン。そんな当たり前なことを訊いて。机の角に頭をぶつけて記憶喪失にでもなってるんじゃないの? あるいは頭がおかしくなってるのかしら」 ああ、その可能性は今回はまったく考慮してなかった。しかし古泉たちも記憶が俺と同じなのだから、黙殺でいいと思うね。 「なあハルヒ。俺さあ、金曜日の朝もこんなことを訊いてなかったっけ? あの時は長門有希って女子のことについてだった気がするが」 「どうだったかしらね。そうねえ……言われてみればそういう気がしないでもないけど……ところでキョンあんたいったい何なのよ。言いたいことがあるならはっきり言いなさい。遠回しな訊き方されるとすっごく気持ち悪いんだから」 一瞬、いっそのことすべてを率直にゲロってしまおうかと考えてから放棄し、ため息とともに何でもないと常套句を吐いて前に向き直った。 不意に、恐ろしいまでの虚無感が押し寄せてきた。感覚はそろそろ麻痺しちまっているが、時々、思い出し笑い並の唐突さでやってくるこれは吐き気を伴うまでになっている。 ホームルームが終わったら朝比奈さんと仲のいいはずだった鶴屋さんのところに行ってみようかとも思ったが、面倒になってやめた。 ホームルーム中、俺は机に伏せて微動だにしなかった。 * この日の放課後は特に何もなかった。 もっとも、長門や朝比奈さんがいなくなる以上に何かあってもらっては困るのだが。 この日は本当に、朝比奈さんがいないと部室で腹に入るものがとたんにまずくなることを実感したね。物理的にも、精神的にも。インスタントコーヒーだってたまにはいいだろうが、朝比奈さんのいないこのSOS団では、コーヒーは欲しかったら自分で淹れろという規律が存在しているようであり、自分で淹れたコーヒーを自分で飲んだところで味も素っ気もない。 無論そう感じるのは俺のコーヒースキルが劣っているからということにとどまらず、部室にいる人員にも問題があった。やっぱりこの部屋にいるのがハルヒと男二人だけってのは寂しいものなのだ。長門の読書姿でも、朝比奈さんのお茶汲み姿でも、それがSOS団の象徴になっていたということを改めて思い知らされた。 結局この日は喪失感が大きすぎて何もやる気がしなかった。古泉がヤケ気味に囲碁対戦を申し入れてきやがったが、今日ばかりは断らせてもらうぜ。 そんなこんなで、ハルヒはパソコンに向かっていたり雑誌を読んでいたりで、古泉は完全に持て余して詰め将棋状態、俺はパイプ椅子で半分以上茫然自失としているという、ある種異常とも言える本日の部活動は、うだうだの暑さが引いてきた頃に校内に響きわたったチャイムをもって終了した。 そうとなればもうこの部室にいるわけにもいかず、やがてして俺らは大量の生徒とともに校門から吐き出されることになった。俺はハルヒの後をセンサーで感知して動くロボットみたいに追い続ける。三人で、今の俺にとってはくそどうでもいいようなことを会話しながら、いつもの駅前に着くと、そこでまた明日と言って二人と別れた。 古泉もハルヒも、やがて街の雑踏の一部と化す。 * 家に戻った俺は、それでもまだ茫然としていた。ショックが大きすぎたのだろうか。 そんなのは言うまでもなく当たり前である。ただでさえ長門と朝比奈さんが消えてしまったショックはひどいのに、さらにこれ以上誰かを失う可能性が示唆されているというのだ。古泉はそう言っていたし、それは俺も納得せざるを得ない。明日仮に古泉が消えていたとしても、それはもはや、俺にとって驚愕すべき事態ではなくなっているのだ。 ではそうならないために俺は何ができるか。それはただ、待つことである。橘京子が助けに来るのを待つだけである。今日、それを自覚されられてしまった。 正直言って、俺は参っていた。 だだっ広い暗闇の中に置き去りにされて、それでも俺はそこから一つの希望を見いだした。その糸をたどっていって、ようやくはっきりした光明が差したのだ。SOS団のウェブページに現れた文章がそれである。橘京子を連れてこい。 それが俺たちの力では不可能だと悟ってしまった。橘京子の連絡先も所在も一切不明なのだ。どうしようもない。ただ俺たちは、橘京子が早く現れてくれることに運命を託したのだ。橘京子がライオンで俺たちは狙われたシマウマといったところか。別に橘京子が俺を殺そうと思っているわけではないだろうし立場関係的には間違っているだろうが、それでも活殺自在という根本において大差はない。手を下すのが自分か別の誰かかという違いがあるだけである。 だがシマウマというのは決して気分のいいものではない。俺は人間であるが故に知性というものに持ち合わせがあり、いいんだか悪いんだか知らないが、無抵抗に殺されるような真似はできるだけ回避するようにできちまっている。 そこで俺は思いついた。人智の発想さ。 誰か、橘京子の連絡先を知っていそうな奴はいないか、と。 思いついたね。そんときはおおいに笑みがこぼれた。 俺はそんなことを夕食を食べながら、風呂につかりながらずっと考え倒していた。おかげで、食事中はひたすら黙し続けて体調を心配されたり、風呂から出たときは全身がゆでダコのように真っ赤になっちまった。 風呂上がりですぐさまコードレスフォンを手にして自室にこもった。妹がふとどきにも俺の部屋でシャミセンと戯れてやがったがエサで釣って追い出してやった。たやすいもんだ。 電話は何回かコールした後、繋がった。 『もしもし』 「もしもし。ああ、俺だ」 とか言ってからナントカ詐欺を思い出したが、相手には無事に伝わったようだった。 『ああ、キョンか。こんな時間に、しかも僕に電話してくるとは珍しいね。何か急な用件でもあるのかな』 「まあな」 物わかりがよくて助かる。 俺が電話をかけたのは土曜日に再開を果たした人物の一人――つまり佐々木だった。 当然である。橘京子と俺の共通の知り合いで、しかも俺が絶対的な信用をおける奴など佐々木をおいて他にいないのだ。 「佐々木、お前にも用件の心当たりはあるだろ」 佐々木はしばし考えるふうな沈黙をおいて、 『そうだな、未来人が突如として消え去ってしまったことについて、かい? 橘さんから聞かされたよ。いやあ驚いたね。みんながみんなこういうののジャンルはファンタジーだと言うが、僕にしてみればホラー以外の何者でもない』 「ああそうだ。そのことについてだ。お前に訊きたいことがあってな」 『ほう、何だい。僕はそんな重要情報は持っていないと思うけどね』 それでも佐々木は好態度を示してくれるので俺は話しやすかった。こういうのがコミュニケーションスキルにおいて佐々木と他の連中との違いなんだろうね。 とはいえ、いくら佐々木でもパスワードの内容とか詳しいことまで喋るわけにはいかなかった。そこらへんは適当にごまかして、いろいろ手を尽くした末という表現に変換し、長門のものらしいメッセージを発見したこと、それによると長門を救うには橘京子が必要不可欠であるらしいことを話した。そして肝心の橘京子の連絡先を俺たちの誰もが知らないという、一見コメディである。 「ということでだ佐々木。率直に訊くがお前、橘京子の連絡先を知らないか?」 『それが用件というわけかい』 「その通りだ。知ってたら教えてくれ、頼む」 『いや、知らないんだ。お役に立てなくて申し訳ないが』 ちくしょう。 頼みの綱がまた一本切れた。残ったのはもはや、ただの恐怖でしかない。 「橘京子から教えられてないってのか」 『まあそういうことになるだろう』 「電話番号とかそういうのじゃなくていい。住所とか地名とか、名前でもいい。何か知らないのか?」 『申し訳ないが』 佐々木は同じ言葉を繰り返し、俺が黙り込んでいると電話の向こうで少し笑った。 『驚いたことに、僕から橘さんに連絡したことは一度もないんだ。さすがは橘さんと言うべきかな。味方にも連絡先を教えずに警戒するとは周到だよ』 暗い心のまま佐々木の言葉を聞いていたら何だか呆れてきた。 「お前は、そんな奴を信用してつるんでたのか。自分の連絡先も教えないようなヤツを」 『それはしょうがないことだ。誰にも、これは譲れないというものはあるからね。人はみんな、そういうことを承知した上で他人と付き合っている。承知できないか、承知できる範囲が狭い人間はどうしても他人と距離が開いてしまう。だから僕は橘さんのそういう考え方をできるだけ理解しようと努めているんだ。仲間としてね。キョン、たぶんそれはキミにも言えることなんじゃないかな』 俺は半分頭を素通りする情報を捉えようと電話機を握り直した。 「俺があの超能力者と一緒にされるのはあまり気分がいいもんじゃねえな」 『キョンが橘さんだと言っているわけではない。キミは橘さんの立場にも僕の立場にもなりうるだろうね。SOS団という団体の中で』 だったら俺は間違いなく佐々木よりのスタンスである。三者三様の理屈と考えを噛み砕いた上で俺の考えというものを構築していかねばならんのだから大変極まりない。さらに俺にはハルヒの理屈と考えまでもがのしかかるのだ。もちろんあいつにはあいつなりの理屈があってその上で理論ができているのだから、黙殺するわけにはいかない。 『だからさ、キョン。SOS団の人員と同じように橘さんにも事情がある。もちろん僕や僕の仲間の未来人、周防九曜さんにもね。個人の理屈や考えという観点から考えるのなら、彼女が連絡先を教えてくれないというのに許せないという感情を抱くのは彼女がかわいそうだ』 しかしそうは言ってもな、佐々木。事実は事実だし義務というものもある。俺にとって橘京子は信用をおけない存在で、SOS団のメンツは仲間なのだ。 『言っておくが、キミにとって橘さんは敵だろうが僕にとっては仲間だ。それに僕からすればキミたちの団体のメンバーは信用のおけない存在かもしれない。キョン、常に条件は対等なんだ』 俺がどう反論を試みようかと思っていると、佐々木は急に声を詰まらせた。次に発せられた声が涙声のように聞こえたのは、さすがに俺の耳がおかしいのだと思う。 『橘さんを信じてやって欲しい。これは橘さんの仲間であって、キミが信用してくれている僕からの願いだ。だからキミは今日、僕に電話をかけたんだろう。……頼むよ、彼女はきっとすぐに現れる。だから彼女を責めないでくれ』 「しかし……じゃあ、お前は完全に橘京子を信用してるんだな。すぐに現れると言い切れるんだな?」 『それは少々語弊があるけどもね。ここで人生論を持ち出すほど僕はえらい人間じゃないが、しかし僕には僕の人生があって、僕は仲間についていくことしかできない人間だ。彼女の思っていることを全部見通せる気はしない。だけれど、僕にはそう信じる義務があるのだと思うよ』 俺は嘆息した。これで俺は佐々木を信用する気になった。橘京子を頼る決心ができちまった。 それからしばらく、佐々木と人生論について語り合った後電話を切った。何となく、これから先も佐々木には到底かないそうにない気がしたね。あいつはとんでもない人間だ。 ついでに古泉にも電話してやろうかと思ったが、突如津波が押し寄せるように睡魔がやって来たのでやめた。携帯電話をしまってから部屋の電気を消すと、部屋には静寂がおとずれた。俺はだるい暑さに抱かれて暗い天井を見ながら、さっきの電話のことをしきりに考えていた。 人の事情を承知できる範囲が狭い奴は、どうしても他人と距離が開いちまう。 橘京子と連絡を取るのが不可能だと思い知った後しばらくして熱が冷めたら、その言葉だけがまだ、いやに熱を持ち続けていると気づいた。ハルヒのことが真っ先に頭に浮かぶのはどうしてだろうね。ハルヒにももちろん事情はあるのだ。あいつにはあいつなりの考えがあるし、それは常に変化している。一年前と同じことを考えているわけもない。どこぞのペットの猫よりも気まぐれに、妙な情にほだされることもある。それがいっそう俺をいらだたせるのだ。 考えるべきは消えてしまった長門と朝比奈さんの謎についてであるべきが、なぜかそのことに頭が取られているうちに眠りに落ちた。
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付き合って3ヶ月目の俺とハルヒ。今日は日曜日。 昨日は探索をこなし、今日はデートの予定だ。天気は快晴、気候もよし。 「なのに、なんでお前の部屋で二人で寝てんだろうな」 「知らないわよ、そんなの。あ~、良い天気ね」 「ハルハル~、外にデートに行こうぜ~」 「行かない、疲れてるもん。それとキョン、その呼び方やめなさいって何度言ったかしら?」 自分だって、俺を名前で呼ばないじゃないか。とは言えない。 だから、俺は何度でもそう呼ぶことで反抗するのさ。 「ハルハル~。昼飯も食べないといけないだろ~?」 やはり、ポカポカ陽気のせいか話し方までダラダラしてしまう。 「後であたしが作ってあげるわよ。……今度『ハルハル』って言ったら別れるわよ」 「そんなこと言うなよ、ハルハル~」 「あ、もう怒った。二度と口きかないんだから」 ハルヒは俺に背を向けるように寝返りをうった。……本気で怒ったか? しかし、この呼び方は意外に気に入ってたりする。 「ハルハル? 怒ったのか?」 「……………………」 返事はない。ただの屍のようだ。とか言ってみる……無理。本気で殺される。 「ハルハル、こっち向かないと……キスするぞ?」 「……………………」 返事はない。OKの証だ。俺はハルヒの首を捩じり、優しく口づけた。 「ちょっと! 勝手に何してんのよ!」 「いや、こっち向かないとキスするって言っただろ?」 「言ったけどさ……もっとほら、雰囲気とか……」 ハルヒは拗ねたように唇を尖らせた。その唇にもう一回キスしてみる。 「だーかーら!」 「今、キスして欲しかったから唇を尖らせたんだろ?」 大きな溜息の後、ハルヒは無言でまた背中を向けた。そろそろマジギレか? 「……………………」 ……遊ぶのは終わりだな。背中から『あんたなんか嫌いオーラ』が出てる。真面目に謝ろう。 「ハルヒ、俺が悪かった。俺はただ、お前とデートがしたかったんだよ」 「……あたしはただあんたと一緒に居たいだけなのに」 背中を向けたまま放たれたその言葉は、どこか『いじけた感』を感じさせる発音だった。 あぁ、やっぱり怒ってるな。しかしその理由がまたかわいい。 「俺が悪かった。だから機嫌直せよ、な?」 ここで後ろから抱きついてみる。これで機嫌直してくれるか? 「……離してよ、別れるって言ったじゃない」 まだ機嫌は直らない。しかし、伊達に3ヶ月も付き合ってるわけじゃないぜ。 こんな時の対処法もバッチリだ。ハルヒが頑なな態度を崩さない、そんな時は……突き放す。 「あぁ、そうか。勝手に抱きついたりしてわるかったな、『涼宮』」 「……え?」 「じゃあ、俺帰るから。また明日学校でな、『涼宮』」 ここで足早に立ち去る。……フリだけどな。 「え、ちょ……ま……待ちなさい!」 ほら来た。 「う~……ごめん。あたしが調子に乗りすぎた」 付き合って初めて見たハルヒの謝る姿。これがまた、意外にかわいいんだ。やみつきになるね。 それに考えてみろ。あの、何者にも屈しないハルヒが自分に謝ってくるんだぞ? ある一種の征服感を感じないわけにはいかないだろ? 「だから……もっかい」 仲直りのキスを求めてくるんだ、こいつは。まぁ、キスとか抱き締める以上のことはしないんだけどな。 ハルヒが求めてくるまで、俺はそれ以上をしようとは思わん。それに今のままで充分満足だ。 俺は一言、「しょうがないな」と言ってベッドに戻り、ハルヒに口づけた。 まったく、可愛らしい奴だ。ハルヒに気に入られた俺は幸せ者だな。 「あたし、ご飯作ってくるわ!」 そして、仲直りの後はいつものことだが、照れ隠しのために理由をつけて目の前を去るんだ。 ここら辺、ハルヒらしいなと俺は思う。 ハルヒの作ってきたかなり美味い昼飯を食べ、再びゴロゴロダラダラの時間へ。 いい加減どっか行かないか? と言おうと思ったが、やめた。 これはこれで幸せだからな。特に買い物がしたいわけでもないし、どこかでイベントがあるわけでもない。 ハルヒにうで枕をして、たまに言葉を交わす。そして、たまに抱き合ったり、唇を重ねたりする。 これが幸せだと思えない奴がいたら俺に教えろ。俺の幸せそうな表情を見せてやるから。 「ねぇ、キョン。どっか行きたいなら行ってあげてもいいわよ?」 おっと、これは予想外だ。いつもはこんなことは言ってこないんだけどな。 あらたなパターンを知るイベント発生か? ……まぁ、俺の選択肢は決まってるがな。 「いーや、遠慮しとく。お前は行きたいのか?」 するとハルヒは、こんなことを言いだした。 「違うけど……あんたがしたいことがしたいからさ」 ……フラグ成立か? 俺がここで一言、「ちょっとエッチなことがしたい」とか言うとどうなる? さすがに断るよな。「あんたキモすぎるわ」とか言われて。 しかし、初めての展開ならやってみる価値はある。もちろん、最後までやる気は毛頭無いが。 「俺がしたいこと? ん~……お前とちょっとやらしいことがしたい」 さぁ、どう出る? 困るだろ、顔真っ赤にして……かわいいんだよ、バカ! 「……い、いいわよ」 ハルヒは小声で言った後、強く目を瞑った。ヤバい、このまま突入だけはヤバい。 「や、優しくしなさいよ……」 なんでこいつは予想外のことをするんだよ……。しかも「優しくしなさいよ」ってなんだよ。 ……我慢できなくなるだろ、バカ。 とりあえず、ハルヒを跨いで座り、上からキスしようと顔を近付ける。 「……っ」 あ~、やっぱダメだ。こんな顔をしてる奴とやるのは無理。あたし我慢してます、みたいな顔するなよ。 俺はハルヒの額に頭突きをかまして、再び横に寝転んだ。 「あたっ! ……キョン、なんでやめるのよ! あ、あたしは全然怖くなんてないんだから!」 「冗談だよ、冗談。無理しなくても、ずっと俺は好きでいてやるよ」 ハルヒに対して優位に立っているとこんなセリフが出るもんさ。 今の俺はなかなかカッコいい部類なんじゃないか? あ、勘違いか、すまん。 「キョン、ありがと……」 ケンカ(もどき)の後のハルヒは完全に言いなりだな。ま、他の奴等といる時は完全に俺が下だが。 それくらいのサービスをもらってもいいよな? 普段は俺がこき使われ、二人なら俺が優位。これが俺達のバランスの取りかたらしい。 つーか、幸せなら何でもいい。バランスもいらん。ただ二人だけの時間が増えさえすればな。 「すー……すー……」 おっと、うで枕が気持ちよかったのか、眠りはじめやがった。これでまた、俺の腕は痺れることになるな……やれやれ。 しょうがないから俺も寝るか。それじゃ、おやすみ……。 おわり
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「……無事に出発されたようですね」 「ええ。キョンくんとみゆきなら、無事に涼宮さんを連れて来てくれるはずです」 ――古泉一樹。朝比奈みくる、異時間同位体。 「そして……これからの古泉くんの行動ですが、あなたには長門さんの思念体を過去のキョンくんの元へと送り届けて欲しいの。その、古泉くんはこちらの意図を理解してくれていますよね?」 「概要は掴めているつもりです。僕の有するファクターと過去への時間遡行、そして長門さんの記憶を取り戻すという事柄から、僕の行動は必然的に導き出されていますから。つまり、僕の精神探訪の能力をもって時間を止められている彼の精神領域へと長門さんの思念体をダイブさせ、そして過去……去年の七夕から、長門さんには彼の目を通して世界を見てきてもらう。彼女が抱える自分自身の悩みを、まさしく第三者的客観を通して見つめ直してもらうためにね。もしかして、彼を長門さんの部屋に寝かせたのはそのためだったのでは?」 「はい。この初期状態の長門さんには、過去から現在までの情報を直接人の目を通して取得してきてもらいます。そしてその対象となる人物は、SOS団の殆どを見てきたキョンくん以外にはあり得ません。でも、これはキョンくんの私生活も長門さんに見られることになっちゃいますけど……」 「でしょうね。ですが、彼がこの案を聞いたとして拒否をするはずもありませんよ。しかし、この計画を実行するということは、既に彼の中には……あの七夕から、今までずっと長門さんが存在していたということになる。……長門さんは、今このときも自身の問題を解決していないのですか?」 「……ええ。長門さんが自分の問題を解消するのは、これから向かう《あの日》の中で、と聞いています」 「そのようでしたら、わたしが持つ長門さんの同期制限の解除コードを、圧縮した状態で長門さんの中に含ませておきましょう。もし彼女がそこで同期を求めるような事態があった場合、その行動を制限されないように」 「ええ。よろしくお願いします」 「……あの、古泉くんは、あたしが長門さんの部屋に連れて行ってもいいですか?」 ――喜緑江美里。朝比奈みくる。 「うん。頼みますね。わたしはちょっと……その、キョンくんたちが帰ってくるといけないから……」 「良かったぁ。実はあたし、ちょっとだけでも元気な長門さんに会いたくて」 「では……僕は小さな朝比奈さんに長門さんの部屋へと送り届けてもらい、一旦隣室へと身を隠した後で、時期を見計らい行動を開始する。ということでよろしいのですね?」 「はい。ですが行動の実行については、小さなわたしが再びやってくるまで控えておいて下さい」 「了解しました。では……そろそろ僕も、発表会の準備をしなければ」 「わかりました。じゃあ古泉くん、目をつむって下さい。長門さんもこちらに」 ――長門。長門有希、『私』。 「タイムトラベル……色々思いを馳せたいところですが、そんな悠長なことは言ってられませんね」 「ふふ。時間酔いに注意してね。……じゃあ、行きます――」 ――TPDD動作開始。TPDDによるエキゾチック物質の射出を確認。時間連結平面帯に対する破壊及び再構築を確認。指定時空間座標域への一時的ワームホール形成終了。パーソナルネーム朝比奈みくる、古泉一樹の有機データ変換開始を確認。同個体の情報変換処理における誤差…………――――――― ――ここは何処だろう。……暗い、色のない部屋。 この部屋には氷の棺桶が置いてある。その上には一人の男が座っていて、他には何もない。 「こんにちは」 彼は私に言う。笑っていた。 こんにちは。 私も彼に言う。私の表情はわからない。 彼はここで何をしているのだろう。そして、私も何故ここにいるのだろう。 私がしばらく考えていると、 「遅れてしまいました」 闇の中、男の後ろに白い布が舞い降りた。淡く光っている。 「そちらの方は、無事に完遂されたようですね」 男が言う。嬉しそうに、微笑みを浮かべながら。 「やっぱり長門さんに助けられちゃいましたけど、ちゃんとみんな無事でしたっ あとは、ここにいる長門さんを導くのみです。中学生の涼宮さんも、公園で古泉くんを待ってますよ!」 白い布から声がする。中にいるのは少女のようだ。声で解った。 「それはよかった」 男が低い声で笑った。男は私を見つめると、 「発表会はまだ始まっていません」 男は氷の上から動かない。 「まだ、時間はあります」 発表会。 私は思い出そうとする。私はここで何を発表するのだろう。焦る。思い出せない。 「時間はあるのです」 男は言う。私に微笑んでいる。白い少女のオバケは嬉しそうに舞っている。 「待ちましょう。あなたが思い出すまで」 少女は言う。私は氷の棺桶を見つめた。 一つだけ、私は目的を覚えていた。 私の居場所は氷の中だった。 私はそこで眠っていなければならなかったのだ。 そこから出た私は、再びそこに戻るために帰ってきたのだろう。氷の棺桶には男が腰掛けている。彼が立ち退かないと、私はそこに入れない。 「あなたが発表を終えて、それでもなお望むなら」 入りたがる私に男が答える。 しかし私には発表することがない。発表会に参加する資格がないのだ。 「あなたが主役なのです。みんなは、あなたの歌を聴きたがっています」 歌。それが私の発表するもの。だが、私は何を歌えばいいのだろう。私は知らない。 「あなたの記憶であり、あなたの『旋律』です」 私の記憶。それが歌になるのだと男は言う。 「えっと、大きなカマドウマさんとか……夏と冬の合宿もっ」 「それにコンピ研とのゲーム対決や、文化祭でのあなたの演奏。あなたの名前が題された映画も撮影しました」 男は低い声で歌い始めた。白い布も、踊るように歌っている。 「そして……クリスマス。《あの日》のこと」 そこで二人は歌うのをやめた。 私はその歌を知らない。きっと覚えていないのだろう。思い出してみたい。私はすぐに発表したいのだ。 彼が立ち退かないと、私はそこに入れない。 「これからあなたには、自分自身をこの部屋の『窓』を通して見つめていってもらいます。そして発表会の日、あなたが発表すべきことをみんなに伝えてください」 この部屋の窓からは私が見える。男はそう言った。 ならば、私は見ようと思う。この部屋から見える私の姿を。 ――そして私は、窓辺に立つ。 その時まで、私は一人ではなかった。多くの私がいる。集合の中に私もいた。 情報統合思念体。その情報生命の一つが私だった。 私は仲間に、様々なもの全てを見ることを許された。それが私の存在。 仲間は私に学ぶことを許さなかった。それは当然のこと。見たものをそのまま伝えるには、私というものは邪魔にしかならない。見るだけの行為、それだけが私に許された機能だ。 私が見ていた世界では様々なものが生まれ、壊れていった。そしてまた何かが生まれる。その繰り返しの果てには、何があるのだろう。きっと何もないのだ。すべての現象は意味を持たない。偽りの世界に私たちはいる。 しかし、やがて私は意味を見つけた。涼宮ハルヒ。自律進化の可能性。 彼女の存在は我々にとってそれだった。私は彼女を見るために地上へと舞い降り、『私』という存在の証明を手に入れた。 物質と物質は引きつけ合う。それは正しいこと。『私』が彼女に引き寄せられたのも、それがカタチをもっていたからだ。 『私』は彼等と出会い、それぞれと交わった。この窓から見える『私』に、この部屋の主は言う。『私』には、感情がある。 それは、私にもそう思えることだった。私にその機能はないが、そうしてもよいかもしれないことだった。 そして発表会。 この部屋の主は言う。『私』が変えた世界は、私の望んだ世界なのだと。 しかし、それは私が存在する意味を失ってしまう偽りの世界。私はそれを望まない。 今の私は、彼等と一緒に過ごす『私』の姿をもっと見ていたい。それが、彼等との日々を見てきた私の望み。 じゃあ、『私』は何を望んだの? 『私』に降り積もるエラー。それは感情なのだと、私も彼と同じようにそう思っていた。 でも、それは間違いだったのかも知れない。 『私』は世界を変えた。それは見るという機能しか持っていない私が、人の感情に触れて起こしたバグだったのだろうか。 もしそれが真実だとしたら、私は棺桶の中で眠らなければならないだろう。しかし、今の私はそれを望まない。 この部屋の主は、『私』が変えてしまった世界の中で苦しんでいた。彼は自分を無力だと言うが、何処にも逃げない。それはとても価値のある意識。私にはないもの。 私は発表会に出られなかった。私の歌を、思い出すことが出来なかったから。 舞台に上がれなかった私には、もう発表する資格などありはしない。 窓の外では、優しい人たちが『私』のそばにいてくれる。『私』の未来は、彼等と共にある。それはきっと幸せなこと。 そう。それが『私』という物語の結末なのだ。 『私』の願いは、いつか彼等が見つけ出してくれる。 残された私には、いつかその日がやってくることを信じて待つことしか出来ない。 ――だけど、もし私にも願いが一つだけ許されるのなら……。 発表出来なかった私の歌を、どうか一冊の本にして欲しい。 その本を私は、この窓辺で――――。 ……長門が変えちまった世界から帰還した俺は、古泉が手配してくれた病院での入院生活から復帰し、文芸部室もといSOS団本部の扉を前にして立ち尽くしている。 この奥には長門がいる。出来るだけ、普段通りの俺でいよう。そう、それが俺たちが取り戻したものなんだ。 息を一つ吐き決心すると、俺は扉を開いた。 「長門……。寝てるのか」 定位置にいる長門は、寝顔をこちらに向けて眠っていた。微かに開かれた唇からは、スウスウと寝息が立っている。 俺は抜き足で自分のパイプ椅子へと向かい、腰を落としてその心地を一身に感じて脱力する。そしてそのまま首を長門の方へ捻りやり、長門の整った顔を覗いてみた。なんだか、こうして見ていると―― 「……長門も、普通の女の子と変わらないな」 同時に俺の胸の中で、以前に感じたことがあるようなモヤモヤが沸きあがった。 それは三年前の長門の部屋で、俺たちを見送る長門の言葉を受けて発生したモヤと同じだった。事件に夢中で一度はうやむやになったが、今なら、その正体が分かる気がする。 やはり長門にとっても、孤独は寂しいものなんだ。きっと。 しかしあれだな。食欲も睡眠欲もあるんなら、こいつも………恋とかするんじゃなかろうか? そんな考えが今までより確かな感覚でよぎった俺は、再度意識を長門の寝顔へと向ける。 ――いかん。変に意識したおかげで、寝息を立てている長門のふんわりした口元に目がいっちまう。 不純だぞ。それは。恩人の長門に対して向ける視線じゃない。 それに、こんな思念を『アイツ』が変態的シックスセンスで感知して飛び込んでこんとも限らな、 「……おわっ!」 「…………」 いつの間にやら長門はパチリと瞼を開いて、黒メノウの様な瞳を覗かせていた。 「起きてたのか?」 「いま」 長門はするりと身体を起こし、面だけをこちらの方向へと修正させ、俺と視線を合わせながら沈黙している。………何故だか、妙に気まずい。 「長門、お前も眠ったりするんだな。思わず見入っちまったよ」 俺が沈黙を破ろうと何とか絞りだした言葉に、長門が淡々と応じる。 「通常は睡眠を取らない。わたしにはその必要性がない」 「じゃあ、さっきは何で寝てたんだ?」 「……異常動作以後、わたしの内部に新たなバグが発生した可能性が確認されたため、デバックを実行」 長門は視線を僅かに下降させ、それっきり押し黙ってしまった。バグ……ね。 「長門。そんなことはしなくていい。それよりもお前は、眠ろうと思えば睡眠だって取れるんだよな?」 こくり。長門が示す肯定のサインだ。 「だったら、普段から眠ってみないか? 俺やハルヒ……皆と同じように」 「何故?」 何故か。……それは、健康とは違った意味で、四六時中起きてるよりは眠ったほうが良いからだ。 しかし俺はそれを口には出さず、 「……いや。まあ、俺の都合なんだけどさ」 「そう」 あと、だ。 「お前、自分の行動を……思念体とやらに制限されてたりするのか? 例えば、そうだな。好きなことをやったりだとか、睡眠だってそうだ。それに笑ったり泣いたり、感情を表す行為なんかを」 俺の質問に長門は相変わらずの無表情で、 「本来はそう。元よりわたしには、そのような機能は備わっていない。だが現在、その規制は緩和状態にある。私がそれらの当該行為を行ったとして、涼宮ハルヒの観察に支障がなければ特に問題はないと思う」 つまり、長門がそういう振る舞いをしても誰も文句を言わないんだな。もし言う奴が居たとしても、俺はそいつを黙らせてやるつもりだったんだが。 じゃあ、と俺が言葉を放とうとしたときだった。 「でも、一つだけ、情報統合思念体から禁令が下されている」 「……何なんだ? その一つは」 「それは、」 ここで長門は一呼吸の間を置き、 「死にたいと願うこと。有機体独自のこの死の概念が思念体内に組み込まれた場合、多細胞生物に観測されるアポトーシス、オートファジー、ネクローシスなどといったプログラム細胞死、いわゆる自殺因子が、情報生命体、つまり情報の寄り集まりによって構成されている情報統合思念体に何らかの惹起を招き、予知出来ぬ障害が発生する恐れがある。わたしや喜緑江美里などの思念体によって創造された有機アンドロイドは基本的には生物学的な死に至ることはない。だが、有機体を素地としているわたしたちの情報構成に死の概念が発生しないとは限らない故、事前にそれが禁止されている」 「なるほどな」 なるほどなんて言いながらも、長門の話は最初の句読点までしか分からんかったが。 でも、それだけで十分だ。 「つまり、死にたいなんて思っちゃいけないってことだろ? そんなことを言うなんて、長門の親玉も思いのほか良い奴なのかもな」 長門はどこか的を得ていないような無表情を浮かべて、ただ、俺の顔を見つめていた。 次いで、俺はさっき言いそびれた言葉を話し出す。 「じゃあさ、長門。これからは、お前が望むように過ごして見ないか? ハルヒの観察が目的だからって、他には何も出来ないなんてのはない筈だろ」 「わたしが、望むこと?」 今度は明らかに困惑した色を浮かべている。……というか、そりゃそうだよな。いきなり今までにないことをやれなどと言われたら、俺でも困るだろう。 「すまなかった、言葉が足りなかったな。まだ自分のやりたいことが見えてこないなら、まずは俺が長門に望んでみてもいいか?」 ――そして、それは恐らく長門が自ら望んでいる事と同じだ。 「長門が少しでも何かを感じたら、それを俺たちに伝えて欲しい。思いを言葉にするだけでも良いんだ。……まずは、それからだな」 そうだ。そうやって段階を踏んでいけば、いずれは長門も感情を面に表せるようになるだろう。 なんてったって長門も、心の底じゃそうなることを願っているんだから。 今の俺には、それは間違いないと断言出来る。絶対だ。俺は、そう望んで、そうなった長門の姿を見てきたんだしな。 つまり長門も、《人間らしく生きてみたいと思っている》んだ。 「……了解した」 「ああ。長門、無理はしなくていいんだぞ」 『―――私の願望は、人のように生きること?』 そうなのだ。私は、いつしか……人間になりたいと望んでいた。 彼等のように行動し、彼等と共に生きてみたかった。 そして心が有限の命から生まれたものであれば、私も彼等のように……。 死を、迎えたかった。 だから私は、氷の棺桶の中を望んでいたのだろう。氷の中での、目覚めのない眠り。 しかし、私は此処にいる。 たとえ私が氷と一緒になっても、その存在が消えるわけではない。 ならば、もう少しだけ。 私がこの窓辺で、彼等を見つめることを許してはくれないだろうか。 仮に許されるなら、私はそうするだろう。 待ち続ける私に、奇跡は降りかかるだろうか。 ……立ち続ける『私』に、笑顔は舞い降りるだろうか。 ほんのちっぽけな奇跡。 「……ところで、藤原くんの話には様々な理論が連なっていたが、キミは、あらゆる理論の中での最強の理論というものは何だか知っているかい? それはね、実は矛盾した理論に他ならないんだ。矛盾した理論というのは、ありとあらゆるものを無差別に証明出来てしまうので、そんなものに打ち勝つ理論は存在し得ないのさ」 「……イマイチ話が掴めんのだが、そりゃどういうことなんだ?」 「煎じ詰めて言えば、ココアをコーヒーじゃないと信じて疑わない僕には、誰が何を言っても無駄だという話だね」 「どうしようもないじゃないか」 「そう、まるでどうしようもないんだ。まるで、恋愛感情といったものの存在を否定していた以前の僕ようにね。キョン、僕は自己の矛盾を知ったことで、感情が持つ本来の姿を垣間見た気がしている。恋愛感情というものは、生物学的な連鎖から脱却し、人間らしく歩むために存在するんじゃないかな。感情が自律進化を阻害してしまうのではなく、むしろ逆で、そのプログラムこそが人間を人間たらしめてきた自律進化の可能性だったというわけだ。……ああ、それと、」 「なんだ?」 「コーヒーをご馳走様。お陰で最後の心残りもなくなった。涼宮さんも一緒だとよかったけど、贅沢は言わないよ。さて、僕たちもそろそろ店を出よう。最後に握手でも交わしてお別れをするのはどうかな?」 「……佐々木、一ついいか?」 「ん、なんだい?」 「確かに握手ってのは別れ際にするもんだと思うんだが、それに含まれる意味を知ってるよな?」 「……ああ、確かに未練がましい行為だ。すまないキョン。僕はもう、キミとは――」 「佐々木。そうじゃないだろ?」 「…………?」 「――また会おう。これからもよろしくな」 「……うん。こちらこそ」 ――感情による、他の存在との共感。それが自分を形作り、進化への道を歩ませるものなのだろうか。 そう。移りゆく世界もきっと無意味ではないのだ。全ては繋がっている。 涼宮ハルヒに進化の可能性が秘められているのは、特別な能力を持つからではない。彼女の生き方にこそ進化への光は存在するのだろう。 手を取り合い、互いを認め合うことで人は前に進めるようになる。 それが心という情報の進化を促すのなら、我々もそうすべきなのだ。 しかし、私が感情に惹かれたのは進化のためではなかった。私が望んだこと。それは……。 『私』も、みんなと一緒に―――。 ……そう願って今の私が手を伸ばしてみても、窓にそっと触れただけで止まってしまう。 そうだった。私はもう、彼等に触れることなど出来ないのだ。 それに気付いた私の頬を伝うのは、水じゃなくて、もっと寂しい―――。 「……結局体なんてね、自分という存在の入れ物にしか過ぎないってこと―――」 「……人はやがて死にます。だけど涼宮さんは、それを逃げ道になんて―――」 「――SOS団のみんなが待っているから!」 「……SOS団とかいう集団こそ、涼宮ハルヒを独りにしている原因じゃないかしら――」 「……情報創造能力だって、現実を認めることが出来ない駄々っ子が創出した……とても幼稚な―――」 ――違う。それは……現実を認められなかったのは、本当は俺なんだ。 サンタクロースを信じていなかった俺が、宇宙人や未来人や超能力者たちもこの世に存在しないのだと知った日……俺はきっとハルヒよりも、そんな常識を心の深いところでは認めきれてなどいなかったのだ。 そんな気持ちを納得させようと俺は次第に自分へと嘘をつくようになり、そうやって生きる俺は自分をごまかすのが馬鹿みたいに上手くなっていた。 この世界に俺は満足している、宇宙人や未来人や超能力者など何処にもいやしない――。 そう自分に言い聞かせているうちに、いつしか俺はそれが自分に対する嘘だったということを忘れ、本当の自分の気持ちを知らずに覆い隠してしまっていた。そう、自分の気持ちを無理に押さえ込み、押さえ込んでいることすら忘却の彼方へと放り投げて、俺はあの日までを過ごしていたんだ。 ――ハルヒと出会った、あの日まで。 あいつは俺が諦めちまったこの世の不思議を本気で探し求めていた。 いつだって自分に正直で、思ったままを素直に行動へと移すハルヒやSOS団の皆と一緒にいることで、俺の中では……自分でも気がつかぬうちに色んなものが変わっていたんだよな。 そして長門の暴走というこの日があったことで、俺はいつしか自分についていた嘘が本当のものになっていたということに気付いたんだ。それは、宇宙人や未来人や超能力者が現実のものになったことじゃない。出会った当初のハルヒが散々漏らしていた、この世に対する不満についてだ。今の俺なら、心の底から叫ぶことだって出来る。 この世界は楽しい!と。 だが、まだ俺は自分に嘘をついていた部分がある。俺の……佐々木への気持ちに対して。 あいつは自分の気持ちに気付いていなかったが、俺は、本当はそうじゃなかったんだ。 俺は自分の目の前にある佐々木への気持ちに気付いていながら、それは違うものなんだと真実を歪めてしまっていた。なぜそんなことをしてしまったのか、今の俺になら解る。佐々木が嫌いだったわけでも、恋愛に対して嫌悪感を抱いていた訳でもない。 俺は、自分の心があらわになることが怖かったんだ。 正義のヒーローが物理法則と常識によって敗北を喫してしまったとき、純粋にそれを信じていた俺の心は無防備のままに深く打ちひしがれてしまい、それ以来、俺は心の深いところを開け放つことが出来なくなってしまったのだろう。 だから佐々木への気持ちを誤魔化し、好意を抱いていたがゆえにそれを完全に押さえ込んでしまった。そうなんだ。やはり俺は中学の頃、本当はあいつのことを―――。 ……そして、それに今まで気付かなかった原因はもう一つある。 俺が佐々木に抱いていた気持ちは別の方向へと向き、その先にいるのは別の奴で、しかもまたもや俺はその気持ちに気付いていなかったのだから、佐々木への気持ちに気付けるわけがなかったんだ。 ああ、そうだよ。――俺は今、ハルヒのことが………。 そしてSOS団、いや、この世界に広がる全てのものが俺は大好きなんだ。 世界も人も変えるものではなく、受け入れることで変わっていくものだと佐々木は俺に教えてくれた。だから――― 「今まで自分たちの行動がどれだけ長門さんを傷つけていたかも知らなかったくせに――」 「堕落した人間の馴れ合いなんか、彼女に求めないで……!」 ……違う。私は、彼等と共にいることが好きだった。傷つけているのは私なのだ。 それは私が一人でいたから。繋がり合うことを知らない私が、手を差し伸べてくれるみんなを傷つけてしまっていた。 私は発表会に出なければならない。私の気持ちを、心配してくれるみんなに伝えるために。 『――あなたの望みはなんですか?』 ……私は元の世界、『わたし』として生きることを選択する。輝くように笑う彼等と歩いて行きたいから。 だから、あなたがくれた氷の棺桶を私は解かしたい。 私が歌うために必要な力を、その箱から取り出して与えてくれないだろうか。 『それがあなたの望みなら与えましょう。あなたの手が、皆さんへと届くように』 そう。私も、彼等へと手を伸ばさなければいけないのだ。『わたし』の好きなものを失ってしまわないように。 彼等がわたしの手を、きっと掴んでくれると信じて――― 第十二章
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涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 長門ユキの牢獄 よし、まずは落ち着こう。孔明の罠かもしれないから 俺は目を閉じて大きく息を吸い込み、そしてゆっくりと吐き出した。 いわゆる深呼吸というものだ、これを行うことで人間は新鮮な空気を肺に送り込み 新鮮な空気は肺より血液に染み込み、そして脳や心臓に浸透する。 簡単にいうとリフレッシュすることができる。 物事を考える前にするととても効果的だ。 よし、落ち着いた。 頭の中で深呼吸の解説を3時間ぐらいできそうなぐらい落ち着いた 俺はゆっくりと眼を開き、 「どうかしたのキョンおじちゃん?」 どう見ても小学校低学年の容姿をした長門を見て 少し、泣いた。 長門ユキの牢獄4 俺はねぇねぇとすがりつく長門を無視して、とりあえず今日一日のことを思い出し始めた。 一日の始まりはこのごろでは珍しく、自分の家から この間の夏祭り以来、ハルヒの監視が厳しい いつもの視線がギンッって感じとすると、このごろの視線はズキャァァンって感じだ 俺は長門と話し込むたびに銃殺される気分だった。 ともかく、俺の朝は妹のシャイニングウィザードもどきにより始まった。 朝食は痛むあごをさすりながら妹と一緒に食べた。 ふと時計を見ると本日のパトロールの集合時間が迫っていた。 逝ってきます、と告げる俺に妹がじゃれついてきた 聞けば今日のパトロールに参加したいのだと言う 俺は数秒考えたが、この狂った夏に必要なのはハルヒの体験した事が無い未知のもの むしろイレギュラーは望むべきものだった というわけで俺は妹の参加を快諾したのだった 集合時間の5分前には駅に到着したが、そこはSOS団 他のメンバーはとっくに集合していた この時の長門の様子はいつも通りだったと思う。 奢る、奢らないかでひと悶着あったのだがそこは割愛 とりあえず妹の参加を伝えると、ハルヒはテンションを三倍増させたのだった。 いつものグループ編成、このごろは長門のイカサマをしていたが今回はズルは無しだ。 久しぶりの運試しに不覚にも少し、ワクワクしてしまったのを覚えている。 結果は俺、古泉、妹という考えうる最低メンバー 久しぶりの古泉スマイルに不覚にも少し、ビクビクしてしまったのを覚えている。 (だ、だいじょうだよな) 忌まわしき黒歴史は再起動を果たした長門によって封じられたはずである 閑話休題 そのあとは照りつける太陽を避けて、適当に建物に入り時間をつぶした。 妹がこれ買って、あれ買ってと五月蝿かったが俺はうまくかわして、すべて古泉に押し付けた。 おかげで古泉の野郎、今日だけで5千円近く使ったのではなかろうか? いい気味だ、待ち合わせのたびに奢らされる俺のつらさが少しはわかっただろう 待ち合わせの場所に到着 集合場所では既に到着していたSOS団女性陣の冷たい視線が俺を迎えてくれた そのあまりの冷たさに、今が夏であることを忘れそうになる まず朝比奈さん、視線を俺から妹へ、妹から俺へと忙しく動かしている。 その表情は厳しく、まるで朝比奈さんに似合ってない。 それからハルヒ、なんかやっぱりね、って感じで納得していやがる。 その勝ち誇った表情は非常にムカつくが、ハルヒらしいといえばらしい。 最後に長門、視線を一転に固定して微動だにしない その刺すような視線を追うと、そこには妹の手にある買い物袋(古泉に買ってもらった服などが詰っているはず)があった。 そう、今思い出せばこの時からだった長門の様子が変になったのは その後、妹の活躍によりなんとか和んだ空気の元、定例の報告会 もちろん、新しい宇宙人も超能力者も未来人も見つからなかったわけで即時解散ということになった。 妹との帰り道 先程の女性陣の様子が変だったのはなんだったんだろう、と思っていた所に着メロが響いた 誰からだろうと画面を見てみる、そこに映し出されていたのは見慣れた長門の家の番号だった。 妹から少し離れ電話を取る 「どうかしたか?」 この頃はハルヒの監視の目が厳しいので当分は会わないことにしている ならば、別のところで問題でも起こったのか?と心配になって聞いてみる。 「……来て」 俺の質問には一切答えず、長門は用件だけ言うとあっさりと電話を切った。 「?」 わけがわからない。 無口キャラを地でいく長門も電話だったらそれなりにしゃべる。 それが人と視線を合わせて喋るのが苦手なのか、仕草で伝えることが出来ないからなのかは知らないが。 …そんな長門が、ただ一言 もしかしたら俺の想像も出来ない何かが起こっているのかもしれない。 そう、考えた俺ははやる気持ちを抑えて、妹に「国木田の家に泊まる」と告げて別れた。 俺は妹の姿が見えなくなってすぐに走り出した、目指すは長門の住む分譲マンション 待ってろよ長門 ―――――と、長門の家に着いたのが十分ほど前だ そこで俺を迎え入れてくれたのがこのチビ長門というわけだ チビ長門、便宜上この名前で呼ぶことにする。 身長は俺のへその高さくらい、体重は40キロあるかも怪しいだろう 見た目で言えば小学3年生ぐらいだろうか? ようやく俺の論理回路が動き出したようなのでチビ長門に質問してみる。 「君の名前は?」 「長門ユキ!」 元気いっぱいに答えてくれましたよ。 「うん、俺の知り合いにも同じ名前の人がいるんだけど、その人から何か聞いていない?」 俺はなるべく刺激しないように、ゆっくりと丁寧に聞いた。 チビ長門は最初は頭の上に?マークを出して考えていたが何かを思いついたのか、頭に豆電球をつけて居間に走った。 テコテコと戻るチビ長門の手の中には一通の手紙があった 俺はチビ長門から手紙を受け取ると少し手荒に封を開けた。 中に入っていたのは長門らしい明朝体の文章が少し長めで記されていた。 ――本日、定例のパトロールの中で一つの議案を涼宮ハルヒが発表した。 いきなり本題に入る所なんか長門らしいな、と思いながら続きを読んだ。 ――即ち「キョンは重度のシスコン」疑惑である 俺はずっこけそうになる体を強引に支えた、支えなければチビ長門がぺしゃんこに潰れていただろう ハルヒ、あの女に一回ぐらい俺の剛直をぶち込まなければならない気がしてきた ――語られる証言は、証拠ととるにはあまりにも不十分だった 当たり前だ、むしろ邪険に扱っている時のほうが多かった気がする ――が、その後にこのような事を涼宮ハルヒは語った 「いい?もし今日あの娘が買い物袋を持って、うれしそうにしていたら危険信号よ いやらしいキョンのことだから、物品と交換で破廉恥なことをあの娘に要求するに違いないわ。 いえ、もしかしたらもうその毒牙に…」 毒牙に…。じゃねぇ! どんな電波受信すればそんなこと思いつくんだ? お前の頭の中には何が詰ってるんだ!? 俺は打ちひしがれて四肢を床についた_| ̄|○ そんな俺の頭をいいコ、いいコと撫でるチビ長門 そうだ、まだチビ長門のことには触れられていない続きを読まなくては ――結果は涼宮ハルヒの予想通り、物を買い与えていた。 誤解だ、買い与えたのは古泉で、妹が嬉しそうなのはいつでもだろう ――危機感を持った私はあなたに試験を課すことを決めた。 試験?それがこのチビ長門とどんな関係が? ――あなたの眼前に涼宮ハルヒの言う妹属性を持った少女が現れた場合、あなたがどういった対応をするのか? ――それが試験の内容。 ――追伸、明日の朝には元の姿に戻る。 手紙は以上だった。 むしろ、手紙は異常だった。 それでか、それでお前は自らの体を変化させ、性格や口調をハルヒの言う妹っぽく改造したわけか これが超思考存在にも恐れられるハルヒ効果なのか? あぁ、世界が電波に染まっていく 俺は久しぶりにちょっとだけ、本気で泣いた。 頭を撫で続けるチビ長門の存在を感じながら よし、復活 この非常識な世界で生きていくには強くなるしかない。 開き直った俺は、とりあえず何をするべきかを考えた 「…………………うん」 逃げよう 逃げてまた明日長門を訪ねて記憶を消してもらおう 目的を決めれば後は迅速、俺はチビ長門を優しく椅子に座らせると玄関に向かった。 そして絶望した。 見慣れたドアには張り紙が張られていた。 ――明日の朝まで脱出不可―― どうやら俺の行動は読まれていたらしい というか、俺が見つけられなかっただけで最初っから貼られていたっぽい さすがは長門と、言うべきなのか と、玄関で固まる俺をチビ長門が居間から呼ぶ 「キョンおじちゃん、ご飯つくってー」 すべてを諦めた俺は、 従者の如く、奴隷の如く、亡霊の如く働き始めた 現在の時刻22時丁度 語るも涙聞くも涙の苦難の道のりだった 何が辛かったって言うと――――― 19時10分 「キョンおじちゃん?」 このテストがどういった基準で行われているのかは俺の理解の範疇に無い。 そんな中で迂闊な行動はとれない、とりあえず俺はデフォルトのままおじちゃんで逝くことにした。 19時30分 「ミルクが飲みたいの」 料理に忙しかった俺が「冷蔵庫から勝手に取って飲みなさい」と言うと チビ長門は首を振ってこういった。 「おじちゃんのあったかいミルクが飲みたいの」 2、3回まな板に頭を打ちつけて心を静めた後、ホットミルクを作ってやった。 20時00分 食事中 「おいしいか?」 「うん、ユキおじちゃんの作ったものなら何でも大好き!」 それじゃあ、俺が自家生産したあったかいミルクはどうだい?とは言わなかった 20時30分 「おなかいっぱい」 あぁ、わかったから服を捲り上げて腹を見せないでくれ、桜色のポッチが見えそうだ 「じゃあ、お風呂だね」 それはもちろん「今からお風呂に入ります」という決意表明で、俺に同時入浴の荒業を成せと言ってるんじゃないよね? 「ユキと一緒に入りたくないの?」 泣き落とされた 20時50分 「これなーにー?」 あぁ、女を喜ばせるために神様から授かったものだよ。 「ふーん」 今の俺にまともなこと受け答えを期待しないでくれ。 天井を見つめて「古泉イツキ最高」と唱えるのに忙しい だから俺は幼い裸体ををチラチラと見ていないし、体全体でプニプニの肌とか感じてもいない 「ねー、キョンおじちゃん。もう体あったまったよ。」 うん?もうあがるのか? 「ううん、体を洗うの手伝って」 21時30分 危なかった。特に「キョンおじちゃん、胸の所がくすぐったいよ」と言われた時は一線を越えそうになった。 今は風呂も上がり、チビ長門とバニラのアイスキャンディーを舐めながらテレビを見ている。 「おいしいね!」 ああ、そうだね長門 長門は見た目に違わず無邪気に笑う だから、アイスの舐め方とか、口についたバニラがいやらしく見えるのは俺が有邪気だからだろう。 ――と、本当にいろいろなことがあった。 よく我慢したな俺、と少し股間を膨らませながら思う 今俺がいるのは寝室、チビ長門が眠たげに目をこすりだしたのでご就寝ということになった 俺とチビ長門はタオルケット一枚のみで同じベッドに寝ている。 クーラーが効いているとはいえ、温暖化の進む日本ではこのぐらいがちょうどいい ちなみに俺の寝巻きはジャージのズボンに袖なしのシャツ、長門はフル装備の猫柄パジャマ パジャマをどこから出したかは俺も知らない 俺としては溜まりに溜まったものを処理してから眠りたいのだが、右腕にぴったりとくっついたチビ長門がそれを許さない。 まぁ、それなりに精神を消耗したから眠れないことはなさそうだが 「…………」 …明日にはチビ長門ともお別れか そんなこと考えているうちに頭の中に靄が広がっていくのを感じた。 ?時??分 もぞもぞ動く気配を感じて目を覚ました。 首をわずかに動かして右腕を見た。 俺が目覚めたことに気がついていないのか、俺の片腕にとりつた何かは動きを止めない。 そこには予想を裏切らず、俺の腕を使って自慰ふけるチビ長門の姿 荒い息を吐きつつ、俺の腕を股に挟んで秘部を刺激している 俺のむき出しの腕はわずかに湿ったチビ長門のパジャマを感じとっていた。 これが最終試験というわけか?長門 ならば考えが甘かったな お前は日本の由緒正しき文化というものをまるで考慮に入れていない。 即ち、「据え膳食わぬは男の恥」という日本最高の文化をだ! 「どうかしたのかユキちゃん?」 俺はできるだけ優しく聞いてやった、裏にひそむ狼を気づかせないために 「!」 俺が寝ていると思っていたのだろう、驚いたチビ長門は淫靡な動きを止めた 「どうか、したのか?」 俺が重ねて聞くとチビ長門はおずおずと話し出した。 「キョンおじちゃん、あのね。おしっこする所が熱いの。ユキ、病気かな?」 そーか、そーか、熱いのか。 それなら大丈夫だ、その病気なら俺が治してあげられるから 「本当?」 あぁ、俺のぶっとい注射器で長門にお薬を注いであげるからね。 だから俺の言うことをきくんだよ 「うん、わかった」 いいコだ、いいコにはご褒美を上げよう 俺は体を起こしてチビ長門に覆いかぶさると、その小さな唇に自分の唇を重ねる。 一瞬驚いたようだったがチビ長門はキスが気にいったようで自分からも押し付けてきた。 (上等) チビ長門の意外な行動に、俺はレベルを一つ上げることにした 「?」 自らに触れる俺の舌の意味が分からないのか、唇を硬く閉じるチビ長門 いつもなら自分から開いてくれるのだが、それはそれ。 これならこれで楽しみようはある。 俺はチビ長門の小さく張りのある唇をゆっくりと舐めた。 舌先から伝わる味は極上、最高級の肉もこれには劣るだろう おいおい、前菜でこれかよ。 これは最後まで逝ったら死ぬな 死を覚悟した俺は、更なる味覚を求めて侵攻を再開した。 時間をかけて舐めたおかげでわずかに開いた口孔、そこに一気に俺の舌が侵入する! ぴくんっ 予想もしていなかったのだろう、パジャマごしにチビ長門の体が震えたのが分かった。 だがチビ長門の反応にはかまわず、俺は口内を暴くのに集中する。 唇を肉とするなら口の中は果物、蕩け堕ちる果肉に包まれ甘き蜜が満ち溢れる最高の果実だ 俺は更なる果肉を、蜜を求めて舌を縦横無尽に動かした。 舌を弄び、歯をなぞり、裏頬を抉り、唾液を奪う 今まで感じたことの無い刺激に戸惑うチビ長門、俺の舌から逃れようと顔を動かそうとする。 しかし、今の俺がそれを許す道理は無い 両の手を使い、チビ長門の顔を固定して反抗を防ぐ 「―――!」 今頃になって自分の目の前にいるものの恐ろしさに気がついたのか、体全体で暴れるチビ長門 だが悲しいかな所詮は子供の力、体重とわずかな力で動きを封じ込めることができる。 俺はやっとの事で大人しくなった肉を、ゆっくりと味わいだした。 5分ほどだろうか?我ながら熱中しすぎたようだ。 チビ長門は抵抗どころか、ピクリともしない。 顔を離してみると、真っ赤になったチビ長門が蕩けた目をして荒い息を吐いていた。 (・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よし) 乱れる幼女を見た感想が「よし」 俺は壊れているのかもしれん ま、とりあえずは―― 剥くか むしろ俺は人間失格らしい プチプチとパジャマのボタンをはずし、ご開帳。 もちろんシャツもブラもつけていないので僅かに朱に染まった肌が顔を出す 依然として抵抗が無いので、下のパジャマもパンツごと一気に脱がす 未完成の裸体が俺の前に現れる。 それは芸術だった 仄かに桜色に染まった白い肌 呼吸のたびに上下する未発達の胸 無駄な肉のついていない黄金率の足 そして、一切の穢れの幼い恥丘 そしてその全てのパーツが何の違和感も無く融合した未完にして完璧な芸術だった。 俺は数秒間、何があろうと忘れないように脳裏にこの光景を焼き付ける。 心ゆくまでチビ長門を鑑賞した俺は、芸術を汚す行為を再開する事にした。 両足をやや強引に開くが、チビ長門は無抵抗 若干物足りないものを感じるが、まあいい 薄明かりの元で見るチビ長門の股間は少し赤くなっている程度 これで俺の肉棒を受けるのは少しばかりきついだろう 仏心がわずかに顔を出した俺は、チビ長門に救いの手を差し出してやる事にした。 俺は掴んだ両足を持ち上げ、チビ長門の腰を強制的に俺の顔の位置まで持ってくる ここまですれやる事はひとつ、俺は秘部にゆっくりと舌を這わせた。 びくん、と今までとは違った反応を示すチビ長門 どこかに逝っていた意識が戻ったのか、四肢に力がこもる 「…キョン、おじちゃん?なにを、しているの?」 今の自分の状況が分かっていないのだろう、不安げな声が俺に質問してくる 「ユキちゃんの病気を治す注射の準備だよ」 だから、暴れちゃだめだよ 「…うん、…わかった」 純粋に俺を信じたのか、抵抗が無駄だと気がついたのかは謎だが了解は取った。 それじゃあ治療を始めよう 俺はチビ長門の赤くなったタテスジに再度、舌を這わせた。 まずはゆっくりと時間をかけて、唾液を塗りたくるように舌を使う しばらくするとチビ長門の割れ目から、唾液以外の液体が分泌されているのに気がついた。 「おじちゃん、…そこ、…くすぐったいよ」 そして熱いんだろう長門、大丈夫、わかっているよ 俺に任せておけばみんな幸せになれる、最初は痛いかもしれないが だけど最後は、必ず極楽へ逝くことができるよ。 百戦錬磨の俺が言うのだから間違いない 「うん、ユキがんばる」 OK、俺もがんばる とりあえずいい加減疲れたので、両足を掴んでいた手を離してチビ長門の腰を支える。 結果、見た目パイルドライバーをかけられているようなチビ長門ができあがる。 「おじちゃん、これ何?」 チビ長門が目の前にある俺の息子に戸惑いの声を上げる 「風呂場でも言っただろう?ユキちゃんを喜ばせるために神様から授かったものだよって。」 俺は優しく答えた。 「でも、…おっきくなってるよ」 それはね、おっきければおっきいほど女を喜ばすことができるんだ。 「ふーん」 どうやら質問タイムは終わったようだ。 俺は別にチビ長門にフェラを期待してはいない、間違って歯でもたてられたら事だ。 もししてもらうなら、もっと元気が無くて従順になった時がいいだろう。 そんなことを思いながら俺は自由になった指を使って割れ目を広げた。 俺の手によって開かれたそこは、わずかに愛液を滴らせて肉色の孔をさらけ出した 口の中に涎が溜まるを感じた。 俺は今までよりもさらに顔を近づけ、舌を挿し入れた。 くちゅ 「――あっ」 外側を舐められる行為とは違う、内側を侵される感覚にチビ長門は敏感に反応した。 その反応に気を良くした俺は、先程のディープキス以上に舌を動かした。 …ぴちゃ……くちゅ…ぬちゅ 「―――うぁ!…はぁっ、んっ、だめぇ!」 淫猥な音と未熟な嬌声が部屋を満たす 柔らかいくせに硬い幼肉は俺の舌を受け入れるように動いたと思えば、次の瞬間には弾き返そうと俺の舌を楽しませる。 小さな蜜壺は僅かな愛液で満たされ、何者も触れたことが無い場所を犯す行為は俺を昂ぶらせた。 俺はいったん口を離すと、自由になっている指の先をチビ長門の秘裂に潜り込ませた。 最初「え?」と軟体な舌とは違う、硬質な指の感触に戸惑うチビ長門 だがチビ長門が戸惑っている間も、俺の指は止まる事は無い。 第二間接が隠れるまで小さな淫裂にゆっくりと指を埋め込む それから、中指を折り曲げたり、伸ばしたり、角度を変えることで孔を掻き回、媚肉の感触を楽しむ 先程の舌の時にも感じた、この初々しくも淫らな感触にしばし酔いしれる。 チビ長門の方と言えば、先程よりもさらに深くを抉られる不快感に目を閉じて堪えている。 ならばと俺は中指をぴんっと伸ばすと、さらに深く指を埋める。 ずぷっ 「――ああ、あ」 体内に侵入した異物に惚けたよう口を開け、涎をたらすチビ長門 と、中指が肉壺の中で壁のようなものに行きあたった。 体が小さくなっているので期待はしていたが、本当に処女膜がありやがる。 たまらなくなった俺は、指を一気に引き抜き「ひぅっ」口を大きく開け唇を完全にチビ長門の股間に口づける そして一気に愛液をすすり上げた。 ずずずっと重い水音が響き渡る 「――ふあああああああああぁぁぁぁ!」 チビ長門は中心から蜜と言わず媚肉までをも吸い上げられそうな力に、軽く達してしまったようだ せっかく戻りかけていた意識が、またどこか遠くに逝ってしまった。 俺としては今からすることにあまり騒がれても興醒めなので、丁度良いといえば丁度良かった。 チビ長門を固定していた腰を離し、仰向けに寝かせる。 まず俺は発射寸前の弓のように自らの腰を曲げ、力をためる。 それから両手を使い、チビ長門の左右の太ももを強めに掴んだ そして力の篭っていない両の足を無理やり開き、チビ長門を引っ張ることで幼い秘裂に俺の肉棒をそえる。 チビ長門は「ぴくん」と反応したが、それだけだった。 もちろん俺は心優しいので息子に唾をつけておくのを忘れない。 さて、準備完了だ 後はどうやって挿入するかだが、チビ長門のサイズじゃ俺のはあまりにも大きすぎるだろう 別に大きさを自慢するわけじゃない、中指一本できつかった現実を元に演算しているだけだ。 いくら人体の神秘を考慮に入れようともかなりの激痛を伴うのは明白だ、そこで俺は…… 一気に、貫くことにした。 やめるという選択肢は最初から皆無だった ずぶっっっっ! 一瞬だ、一秒にも満たない一瞬で俺の剛直はチビ長門の処女膜を破り、膣の最奥まで侵入を果たした。 俺の息子は、肉を断つような感覚の他にも処女膜を破る感覚もしっかりと俺に伝えた。 俺は無垢の雪を汚すような達成感にしばしの間、酔いしれた。 「…?………っ!…あ…あ…あぁ……いっ、いたぃ」 最初、茫洋な感覚では何が起こったのか分からなかったのだろう、頭に疑問符をつけていたが 意識がはっきりとすると同時に痛覚もはっきりしてきたのか、弱弱しい声で痛みを訴える 「いぅ…おじちゃん?なにしてるの?」 呼吸するだけでも痛みが走るらしく、浅い呼吸の中で穢れの無い瞳が俺に問うた 「今、ユキちゃんに注射をしたんだよ。注射は痛いものって決まっているだろう?」 俺は、あくまでも優しく答えた。 チビ長門がわずかに頷く 「ユキちゃんはいいコだから我慢できるだろう?」 もう一度頷く 俺はチビ長門の頭をよしよしと撫でると一息に腰を引こうとした。 しかし、子供特有の直感でそれに気がついたのか、チビ長門が制止の声を上げる 「まって、いま、痛いの。うごくのやめっ!あ、あぐぅぅぅぅっ」 が、止まれと言われて止まる馬鹿はいない、俺は勢いよく雁首の所まで引き抜いた。 真っ赤に染まった肉棒が、何よりも醜悪に見えた。 チビ長門が体の一部に空洞ができたような感覚と痛覚を刺激されて悶えている 目を見開き、限界まで開いた口からは小さな舌が突き出ている 体は弓のようにしなり、背骨が折れるんじゃないかと心配になるほどだ ある程度落ち着いた所で、また限界まで刺し貫く! 「ぎぃっ!」 腰と腰が打ち合った瞬間、あまりの勢いに微量の愛液と共に破瓜の血が宙を舞った。 俺とチビ長門、双方に赤い斑ができる。 その紅さに思わず目を奪われた俺は、もっともっとと腰を打ちつけ媚肉を削る。 「―――がっ、うっ、んっ、ぎっ、いっ、いやぁっ」 体の中心に走る異物感に目を回すチビ長門 しかし、その動きからは抵抗というよりも、少しでも痛みを減らそうとする悲しい女の本能が感じられた。 次第に悲鳴が小さくなっていくのがその証拠だ だが、それでは俺がつまらない 俺は少女の努力を嘲笑うかのように縦の動きに横の動きを加える、同時に肉を裂く感触がいっそう強くなる 完全なランダム、縦の動きならばリズムを覚えれば何とかなるが、それに横の動きが加わるなら話は別だ。 「――っ!!!うああっ!がぁっ!あぶっ!はぁっ!!」 あるいは元の長門にはどうにか対処できたかもしれない、…が今のチビ長門に性交の経験は無い。 結果、俺の腰の動きに合わせて悲鳴を上げる哀れな人形が出来上がる。 「――あっ、うっ、あっ、らぁっ、いふっ」 俺の腰の動きに合わせて声らしきものを上げるチビ長門 顔を見れば瞳は何の光も写さず、ただ涙を垂れ流していた だが驚いたことに、口のほうは唇の端を僅かに吊り上げて心なしか笑っているように見えた。 信じていたものに裏切られ、絶え間なく続く激痛が少女の大切な部分を壊してしまったのかもしれない。 「うっ」 しかし、俺のほうも限界が近い 性交によって得られる快楽よりも、幼女を犯す背徳感のほうが俺を昂ぶらせていたようだ 肉棒の根元に今日一日、溜まりに溜まった熱く、ドロドロとしたモノが集まるのを感じた。 俺は限界を感じたその瞬間 抜けるか抜けないかのギリギリのとこまで引き抜き、そして一気に限界までチビ長門を貫いた。 ドクン! 「――――くっ」 チビ長門の子宮の一番奥に出すべく掴んだ腰を、痛くなるほど自らに押し付ける。 精液が放つたびに真っ白になっていく頭の中、それでもチビ長門を掴む手が緩むことは無かった。 数十秒ほど出し続け、俺は射精の痙攣が収まったのを確認してからチビ長門を掴んでいた手を離した。 手を離してもくっきりと残る俺の手の痕、どうやら少し力を込めすぎたらしい。 「ユキちゃん?お薬をたくさん出しておいたよ。」 「………」 俺は殊更優しい声で、チビ長門に声をかけた 対するチビ長門は無反応 いや反応しているかもしれないがあまりにも微細な動きなので、俺に認識することができないのだろう。 それならば、と俺はいい事を思いついた。 「ユキちゃん、病気は治ったかな?」 やはり、チビ長門は反応しない 「まだおしっこする所が熱い?お薬は効いていないかな?」 そう優しく聞くと同時に、俺は腰を一振りした いまだに繋がっているチビ長門は俺の動きに合わせて揺れる、当然首のすわってない頭も縦に揺れる。 そうまるで、頷くかのようにチビ長門の首が揺れた。 「そうか、まだか。」 もし、今俺の前に鏡があれば、嗜虐的に笑う男の顔が見れたことだろう。 俺の考えが、残酷な考えが分かったのか、急速に意思の光を取り戻すチビ長門の瞳 しかし遅い、俺は絶望的な宣告を高らかに謡った。 「ならしょうがない。おじちゃんは辛いけどまだ治療を続ける必要があるみたいだね。 ちょっと痛いかもしれないけど大丈夫、ユキちゃんはいいコだから我慢できるよ。」 俺はチビ長門の口から否定と拒絶の言葉が発せられる前に、腰の動きを再開した。 「それでは、治療を再開します。」 童女の悲鳴が闇夜に響いた。 9時50分 あぁ、太陽が緑色だ。 俺はぐったりと大の字に寝たまま太陽の日差しで目を覚ました。 あの後、壊れチビ長門の上下左右、その全てを犯している時にある問題が発生した。 それは………チビ長門の体力と、快楽への貪欲さが俺の予想はるかに上回っていたのだ。 ある程度俺の肉棒になれ、少しづつ快楽を感じるようになってから奴は豹変した。 自ら腰を振り、新たなる刺激を求めて試行錯誤する しかも、体力に底が無いかのように激しく動くのだ もしかしたら体が縮小された分、余ったエネルギーが体力にまわされたのかもしれない おかげでいつもの長門だったら、終始俺が主導権を握ることができるのだが 昨夜は後半の方は、押されっぱなしだった。 現に、昨日の最後の記憶は俺にまたがり狂喜乱舞するチビ長門の姿である。 こんな化け物の相手にしていたら三日で枯れてしまう。 俺はもはや感覚の無い股間を押さえて身震いした。 と、そこで俺の顔に影がさした。 つまり俺と太陽の間を何者かが遮ぎったということだ。 逆光で表情は分からなかったが、誰かは分かった。 いつもの長門、つまり高校一年生文学少女タイプの長門だ。 長門は何も着てはいなかった、と言うか体中精液まみれで動くたびに固まった白濁液がはがれている。 やはりチビ長門は、いつもの長門が小さくなった姿のようだ 俺が氷解した謎に満足したその時、ノーマル長門が重々しく口を開いた。 「結果発表」 どうやら昨日言っていたテストの結果が出たらしい。 俺としては何を今更といった感じだ、昨日チビ長門に手を出した時点で覚悟はできている。 「涼宮ハルヒ発案の、キョン・シスコン説」 俺はすがすがしい気持ちで判決を待った 「証拠不十分により疑惑の域を出ず、よって無罪」 なにっ!と俺は無様にも驚いていた。 あそこまでして無罪と言うならば、何をすれば有罪になるというのだ! 俺は挑むように長門を見た。 そこで俺は、長門の結果発表が終わっていない事に気がついた。 「――が、同涼宮ハルヒ発案のキョン・ロリコン説、私の現状をもって証拠十分とする」 ハルヒの奴、そんなことまで言っていやがったのか。 俺は心の中で今度ハルヒに会ったら問答無用、公衆の面前でぶち込んでやろうと神に誓った。 「よって、有罪」 まぁ、当たり前だ文句は無い が、どんな刑が下るのかには興味があった。怖いもの見たさの精神で、だが 「涼宮ハルヒによると、ロリコンに処置なしとの事、よって不能の刑に処す」 長門の言葉が終わったその時、俺の視界を太陽の日差しが満たした。 だがおかしい、陽光は長門がさえぎっていた 長門は一歩も動いていないのになぜ太陽が顔を出す? やっとのことで目がなれた俺は、光の中に絶望的な影を見た。 「おじちゃん、お医者さんごっこしよう?」 つまりは、枯れ果てろ言うことか長門 俺は「いくぞー」の掛け声の下、俺に跨るチビ長門を視界に捉え 気を失った。涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 長門ユキの牢獄
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今、俺達SOS団の面子は全員俺の部屋にいる。 ハルヒ「ちょっとキョン!?あんたマジでTVゲーム機を64とスーファミしか持ってないわけ!?」 キョン「しょーがねえだろ。金ねえし」 ハルヒ「ゲームキューブ…ましてやプレステすらないなんて…あんたセンスなさすぎ、ってかダサいわよ!!」 こいつは今の俺の金がないという言葉を聞かなかったのか キョン「お前にいっつも奢られてるせいで金がないんだ。それ以上でもそれ以下でもない」 ハルヒ「あんた私のせいにするつもり!?責任転嫁もいいとこね。あんたが早く来ればいいだけのことなのに」 それができねえから苦労してんだよハルヒさん ハルヒ「まあいいわ、64で我慢してあげる。カセットはどこにあるの?」 キョン「そこのタンスの中にある」 それを聞くと、早速ハルヒはプレイするカセットを探し始めた。 そんな中、古泉はいつものニヤニヤ顔で、朝比奈さんはいつもの微笑ましい笑顔で、長門はいつもの無表情で 俺とハルヒのやり取りを見守っていた。なぜこんな状況になっているかは昨日の放課後に遡ることになる。 その日は金曜であった。俺と古泉が部室で平和にオセロをしていて、朝比奈さんがお茶を入れてて、 長門が本を読んでいて、そこに勢い良くドアを蹴飛ばして入ってくるハルヒ。いつも通りの光景である。 ハルヒ「土曜の不思議探索どうしよっか?!?」 古泉「涼宮さん、そのことなんですが、明日土曜は雨のようですよ。」 ハルヒ「え?そうなの?それは困ったわね」 正直に言おう。ここで俺はひそかに不思議探索が中止になることを祈っていた。 そりゃそうだ、月~金と学校があって土日は休むための日である。この休むはずである日に毎週俺は 労働しているわけだ。である故に、せめて雨の日くらいは家でゆっくり休みたいと思ったしだいである。 しかし、ここでハルヒは俺の期待を180度裏切る発言をするのだ ハルヒ「じゃあキョンの家に行きましょう!」 はあ??なんじゃそりゃ。休むも何もあったもんじゃない。だが、ここでハルヒに反対しても無意味だということを 俺は今までの経験で学習している。だからもはや悪あがきする気も起きない…潔くあきらめるってのは気持ちいいな。 仕方ねえ、明日も今まで同様、お前に俺の1日を捧げてやるよハルヒ そんなわけで今に至る。もちろん休日であるからみんな私服である。長門は相変わらず制服であるが。 土曜の午後、外では雨がしきりに降っている。 ハルヒ「みんな、このゲームやってみない!?」 ハルヒが手にしているのは64でオナジミの大乱闘スマッシュブラザーズである。 キョン「それはいいが、何でスマブラなんだ?」 ハルヒ「こういうみんなでバトルするゲームって盛り上がるじゃない?それにスマブラって任天堂ゲームのキャラが 勢ぞろいでしょ?一つ一つのシリーズのゲームやるより、全部のシリーズのキャラが集合って何かお得じゃない! それに私このゲーム持ってるし」 そうかそうか。ハルヒらしい考えだ、特に否定はしない。だが問題は… キョン「朝比奈さん、スマブラをやったことありますか?」 そう、問題は今までスマブラをやった経験があるかどうかなのである。初心者同士ならともかく、 ハルヒが参加するとなると未経験者は悲惨なことになるのは安易に想像できるであろう。だからといってハルヒは ハンデを受け入れるような柔和な性格でもないことを俺は知っている。長門は機械マスターであるからいいとして 問題は古泉と朝比奈さん…特に朝比奈さんは未来人である。スマブラの存在を知っているかどうか怪しい。 いや、90%を超える確率で知らないと思うが。しかし朝比奈さんは驚くべき言葉を口にした。 みくる「(小声で)ええっと…実は未来においてもスマブラは流行ってるんです」 何ですと?! みくる「(小声で)もう何本もシリーズが出てます…私の世界ではゲームの代表格的存在です。」 聞いたか任天堂社員!?お前らは数10年後の未来までも安泰だそうだ、よかったな。 キョン「(小声で)それは驚きです…しかしそんなことしゃべっていいんですか?いわゆる禁則事項ってやつでは?」 みくる「(小声で)そうですね。でも、後でこのゲームをやって私がやれたとき、キョン君は未来である程度これが 知られているということに必然的に気付くでしょう?だから黙っておく必要もないと思ったの」 キョン「(小声で)なるほど、確かにそうですね。って朝比奈さんこれやったことあるんですか!? 未来では何本かシリーズ出てるらしいですが、これは1ですよ?」 みくる「(小声で)昔のゲームも未来では新しい機械を使って…あ、これ以上は禁則事項です、すみません」 少なくとも、未来では昔のから最新までのゲームをできるような環境にあるってことか。なんとも面白そうだ。 キョン「(小声で)しかし、朝比奈さんがTVゲームをやったことがあるとは驚きです」 みくる「(小声で)ふふふ、私も子供なんだからするときだってありますよ♪」 なんだかんだで朝比奈さんは大丈夫のようだな。しかし凄い事実を知ったな…スマブラ凄いぜ。さて、次は古泉だ。 キョン「古泉、お前はやったことあるのか?」 古泉「ええ、ここに来る前は学校の友達とよくスマブラをして遊んだものです。」 キョン「お前もゲームをしてたのか。ちょっと驚きだな」 古泉「(小声で)僕だって涼宮さんに力を与えられて超能力者になるまではごく普通の学生でしたからね、当然でしょう。 といっても、今でもたまにすることはあります」 なるほどね。これで全員がスマブラをできる条件を満たしていることは確認できた。 キョン「しかしだなハルヒ、64は4人でしかできないから一人抜けないといけなくなるぞ」 ハルヒ「確かにそうね、どうしようかしら」 長門「私が抜ける」 今まで黙っていた長門が突然口を開いた。 キョン「い、いいのか長門?」 長門「いい」 そう言うと長門は本を取り出して読み始めた……確かに、機械にめちゃくちゃ強い長門のことだから やったら長門が1位になるのは間違いなさそうだ、故に長門はハルヒを気遣ってるのかもしれないな。 ハルヒ「よ~し!じゃあやるわよ!有希、後であんたにもやらせてあげるからね!」 こうして俺、古泉、朝比奈さん、そしてハルヒの4人の大乱闘が始まったのである。 設定は3分の時間制バトルということになった。どうやらハルヒは短期戦がお好みのようである。 ハルヒ「さあ、一気にあんたたちを片付けるわよ!!」 本当に片付けそうだから怖い。ってかこいつはやったことがあるらしいが、一体どれくらい強いのであろうか。 気になるところである。古泉は…たぶん弱いな、根拠は今までのあらゆるゲームにおけるこいつの連敗記録である。 朝比奈さんは…うーむ、予測がつかないな。一見あまり強そうには見えないが、 もしかしたらダークホースになる可能性も…いや、いくらなんでもそれはないか。 使うキャラは次のようになった。 ハルヒ(1P)=ドンキーコング、キョン(2P)=ルイージ、朝比奈さん(3P)=ネス、古泉(4P)=フォックス ハルヒはドンキーできたのか。パワー系で一気に片付けるってか、なるほどハルヒらしい。古泉は…まあ妥当だな。 そして俺が一番驚いたのは朝比奈さんだ。何?ネスだって!?大抵の人は彼女の使うキャラはプリンやピカチュウと 思い浮かべるはず。まあネスも子供だから彼女らしいと言えばそうかもしれないが…ファルコンとかよりはマシか。 だが問題はネスは上級者向けのキャラということである。いや、そうでもないのか? まあ何が言いたいかというと、油断はできないということである。…ハルヒは言わずもがなであるが。 え?自分?ルイージだが何か文句あるか?確かに、スマブラにおいてルイージを使うやつなんてのは あんま耳にしない。しかし自分は使いやすいんだから他人にどうこう言われる筋合いはない。 頼むぜ緑のヒゲオヤジ、お前にかかってるぞ。 試合が始まった。場所はフォックスの本拠地セクターZである。 さて、まずは様子を見るとしようか…というわけにもいかない。 ドンキーハルヒが始まって早々ルイージに突撃してきたのである!! ハルヒ「キョン!あんたは私の最初のえじきよ!光栄に思いなさい!!」 思わねーよ!ネス朝比奈はそんなハルヒを恐れたのか右端に逃げたようである。 フォックス古泉はというと、Bボタン連打でブラスターショットをピュンピュン俺とハルヒにぶつけてくる!卑怯だぞ古泉。 古泉「いつも僕はゲームであなたに連敗でしたからね。今こそその雪辱をはらすときです」 何が雪辱だ。Bボタン連打してるだけじゃねーかこの卑怯者。 そんな俺はドンキーハルヒの先制にやられ、後ろに投げられる。起き上がってハルヒに立ち向かうが、ドンキーハルヒの ↓+Bのハンドスラップで中へ浮かされてしまう!!そこに追い討ちをかけるかのように空中+前+Aのハンマーナックル がルイージに直撃する。何だこれは、ハルヒめちゃくちゃ強いじゃねーか!!!?これはやばい、頑張れヒゲオヤジ! ピュン!ピュン!ピュン!ピュン!ピュン!ピュン!ピュン!ピュン!ピュン! これは世に言うウザいというやつである。呆れたことに古泉は10秒以上もブラスターショットを 戦ってる俺達に撃ちつづけているのである。特にハルヒの被害は甚大である。 体の大きいドンキーハルヒはルイージよりも攻撃に当たりやすいからだ。 ハルヒ「チッ」 ハルヒは古泉を睨んでいる。その様子に爽やかスマイルの古泉は気付いていないようだ。 古泉よ、俺に復讐したい気持ちもわかるがそのへんにしとけ、お前の明日はないぞ。 ってそういえばネス朝比奈は何してるんだ?見ると、右端でタルを壊していた。なるほどアイテム調達か。 って今は目の前の敵に集中しなければ。ルイージは悲惨なことにドンキーハルヒの↑+Aの連続攻撃に苦しんでいた。 このまま%がたまって↑+A+スマッシュのドンキー必殺のジャンボプレスを食らえば 間違いなくヒゲオヤジは星になっちまう!!!! ピュン! ドンキー「うっ」 お!身動きの取れない俺であったが、フォックス古泉のブラスターショットによりドンキーハルヒの動きが一瞬止まった! 礼を言うぜ古泉!! ハルヒ「…」 古泉を睨むハルヒ。古泉、お前の明日はもうオシマイだ。そして動きが止まったその一瞬を俺は逃さなかった。 ルイージ「Yahoo!!」 空中左斜め上からドンキーに↓+Bでルイージサイクロンをかます!ドンキーは右斜めに吹っ飛んだ。 フォックス古泉の方向である。 ハルヒ「キョン、あんた命拾いしたわね」 そう言うと、ハルヒは攻撃対象を変えた。言わずもがな、フォックス古泉である。俺はおとなしくそれを観戦するとするよ。 ドンキーハルヒの空中+後ろ+Aのゴリラキックがフォックス古泉に炸裂する。 フォックス「うーッファイヤー!!」 負けずに↑+Bのファイヤーフォックスで抵抗する古泉。 アホかこいつは フォックス「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」キラーン 思ったとおり、ハルヒの↑+Aの連続コンボを食らい続け とどめは↑+A+スマッシュでフォックス古泉は星になった。 さらば古泉フォーエバー♪ ファイヤーフォックスとブラスターショットを食らい続けたせいかドンキーハルヒの%がかなりたまっている。 ハルヒを仕留めるには今しかない!ドンキーに向かってダッシュするヒゲオヤジ。よし、これでハルヒを PKボム!! !? ネス「Wow!!!!!!!!」 ルイージ「あひゃひゃひゃひゃひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」キラーン あ、ありのまま起ったことを話すぜ…ハルヒを倒そうとしたらいつのまにか俺は星になっていた。 何を言ってるのか理解できねーと思うが俺にも理解できなかった。何か、恐ろしい片鱗を味わったぜ… …つまりだ、先ほどタルを壊してスターロッドをゲットしたネス朝比奈が俺とハルヒと古泉の戦いの様子を見ていて 俺達の%がたまったところで突然俺達の目の前(右)に姿を現し↑+BのPKサンダーをつかってきたのである。 大胆すぎます朝比奈さん。一体何があなたをここまで変えたというのですか!? みくる「ゴメンねキョン君♪」 というわけで俺とハルヒはそのエジキに…ではなかった。なんとハルヒはそれを避けていた! やはりこいつ、かなりの上級者である。ってやばい、朝比奈さん逃げてええええぇぇぇぇぇぇぇ ハルヒ「いい度胸ね?みくるちゃん?私をフッ飛ばそうとするなんて♪」 ハルヒのキレ具合に急に顔が真っ青になる朝比奈さん。いかにも、私調子に乗りすぎちゃいましたって顔をしてる。 みくる「!」 ネス朝比奈は危険を感じ取ったのか、反射的に手に持っていたスターロッドをドンキーハルヒに投げつけた! しかし避けられてしまった!朝比奈さんの運命はいかに!? 蘇ったフォックス古泉は左端にあったタルを壊していた。続いて蘇った俺、ことルイージはそんな古泉へと突撃した。 そりゃそうだ、今無理にハルヒVS朝比奈さんの戦いに突っ込めばそれこそ自殺行為であろう。であるからして 対象は必然的に古泉となる。まあ俺がこいつと戦ってみたかってのもあるが。 すると突然フォックス古泉は上半身と下半身を激しく振りだしたではないか 新手のアピールのつもりか。見てるこっちは不快だぞ 古泉「ふふふ、ハンマーには勝てませんよね。痛めつけてあげます」 やめろ古泉。ただでさえ今、お前のキャラが腰を激しく振ってんだ。言動がSっぽく聞こえる そして逃げるヒゲオヤジ。くそ!もしサムスを使ってたらハンマーにも対処できたというのに ヒゲオヤジでは何も対処することができない!!今は逃げ回るしか… お、レイガン発見 一方、ネス朝比奈は案の定ドンキーハルヒに右端でボコボコにされていた。 後ろ投げ、ダイレクトスルーの連続攻撃である。これは痛い、痛すぎる。 ハルヒ「どう?みくるちゃん?これがハルヒ流ドンキー奥義よ!!」 みくる「ぴええぇぇぇぇぇん」 ゴリラにぶちのめされる少年…あまりよろしくない光景である。しかしネス朝比奈にも反撃の糸口ができた。 受身をとりドンキーハルヒのつかみを回避することに成功した。そして奇跡的に空からモンスターボールが 降ってきたではないか!ネス朝比奈はそれを手に取りボールを開く。 もしこれがイワークやカビゴンなら彼女の逆転は可能だ。さあ何が出てくるか ラッキー「ラッキー!!!!!!」 おお、なんとラッキーが現れたではないか。 ハルヒ「そうはさせないわ!!!!!!!!!」 これはラッキーだった…………ドンキーハルヒに。 やつはラッキーが生んだ卵を取ろうとするネス朝比奈に↑+Bの回転スピンで妨害し全ての卵を強奪したのだ。 そしてその卵からモンスターボールが再び現れ、ドンキーハルヒはそれを投げた。 バン!バン!バン!バン! その頃、ヒゲオヤジはレイガンで発狂したハンマーフォックス古泉を撃ちまくってた。古泉は手も足もでない。 完全に立場は逆転した。よし、このままフォックス古泉を左端までもっていけば… フォックス「うぉう!」 ルイージ「Oh!」 ネス「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」キラーン い き な り 蜂 が と ん で き た つまりである、先ほどドンキーハルヒが出したモンスターボールからスピアーが現れたのである。 この影響でヒゲオヤジとキツネは上空へと叩きあがられ、%がたまっていたネス朝比奈は星になった。 幸いなことにまだ俺は星になるほどは吹っ飛ばなかった。まだあんま%がたまってなかったからな。 古泉も然りだ。さて、またレイガンでやつを ビュン! ルイージ「Oh!」 ビュン! ルイージ「Ah!」 !? ヒゲオヤジは左端へ吹っ飛ばされ死亡した おいアーウィン、俺に何か恨みでもあるのか? やれやれ、スピアーの次はアーウィンか。古泉との戦いに夢中で右背後にアーウィンが接近してたなんて 全然気付かなかった。俺も運が悪い フォックス「ううん…ううん…ううん…」 おいおい今度は何だ?フォックス古泉が顔を真っ赤にして両手で頭を抱えてるぞ? さっきの激しい腰振りといいお前は一体何がしたいんだ古泉 ええっと、何事かというとフォックスはさっきのアーウィンのビーム攻撃にシールドでガードをしたが故に シールドクラッシュを起こしてしまったというわけだ。 動けないフォックス古泉。よし、蘇った俺がとどめを…と思ったらそうはいかなかった。 なんといつのまにか蘇ったネス朝比奈がフォックスの前に立っているではないか。 古泉「あ、朝比奈さん一体何を…?」 みくる「ごめんね古泉君♪」 なんと、あの朝比奈さんがスマッシュバットでフォックス古泉をフッ飛ばしたではないか!!!!もちろんやつは死亡した …………なんかSな朝比奈さんが怖くなってきた。ってかさっきからとばしすぎじゃないっすか朝比奈さん!? みくる「私は面白いです♪」 おお、極上満点な笑顔!それが見られればSだろうがMだろうが俺は気にしませんとも、ええ。 古泉「チッ」 あ、朝比奈さんを睨んでやがる……そんなに悔しかったのか。復讐心丸だしの顔じゃねーか。 さて、未だにハルヒは1回も死んでいない。ということは逆に言えばやつはかなりの%がたまっているのである。 今度こそやつを仕留める!うむ、まるで織田信長になった気分だ。ってことはドンキーハルヒは今川義元か。 もっとも、この信長はすでに2回死んでるが。潔く先陣をきって今川を仕留めんとせんヒゲオヤジこと織田信長 …ん?待てよ、ルイージはどっちかっつうとヒゲナマズの石田光成に例えたほうがいいのか? とかあまりにもくだらんことを考えていた俺にスキが生じたのであろうか、 ルイージはドンキーにつかまれ、背中にのせられる。ドンキーは俺を抱えたまま移動する。 キョン「おいハルヒ!ル イージをどこへ連れていくつもりだ!?」 ハルヒ「わかってるくせにッ」 ハルヒがニヤリと返答する。 ルイージはドンキーと道連れに奈落の底へと落ちていったのであった……つまりルイージ&ドンキー死亡 なぜハルヒがこんな道連れ行為をとったか俺にはわかる。ドンキーの%が高かったことから、いつかは 吹っ飛ばされると考えていたんだろうな。そこで%を0にするためにいっそのこと道連れを図ったというわけか。 なるほどね。 その頃、左端ではネス朝比奈が蘇ったフォックス古泉の報復を受けていた…………… 古泉「…」 と思ったのだが、逆であった。なんとフォックスがネス朝比奈の↑+Aのトス連続攻撃で血祭り状態だったのである!! ここで二つわかったことがある。一つは、いくら古泉が復讐心に燃えようが本気になろうが、 所詮ゲームでは誰にも勝てないほどやつは弱いってことがな。まあ落ちこむなよ古泉。お前のその闘志は認めてやるよ 二つ目は言わずもがな、朝比奈さんはやはりSだ。Mなのは相手がハルヒのときだけだというのか……orz みくる「何か言いました?♪」 キョン「いえ、何でもありません♪」 そんなやられっぱなしのフォックス古泉が、ネス朝比奈の空中+Aの空中キックで こちらヒゲオヤジの方向へ飛ばされてきた 古泉「…」 古泉「僕に秘策があります。僕はまた今から朝比奈さんに報復しますんでどうか僕に攻撃しないでください」 キョン「古泉、お前 必 死 だなw」 ルイージ「Wahoo!」↑+A+スマッシュ バシ フォックス「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」キラーン 古泉「………もうやだ…」 だが、休息は訪れず ハルヒ「さあ、私にひれ伏すのよ!!!」 げえ、ハルヒ!こいつスターとって無敵になってやがる。そ、そうか、さっきの朝比奈さんVS古泉の戦いに絡んでこない と思ったら、俺と道連れに死んだ後、右端でアイテムを物色してたのか。く、これ以上死ぬわけにはいかねえ まともに勝負しても勝てないだろうから俺は逃げる! うむ、見事に逃げることに成功した。その代わり、ネス朝比奈がドンキーハルヒにまたしてもボコられたが。 すまん朝比奈さん、見捨てたりして。だけどこれはゲームだし、別にいいよな? 案の定、ネスは無敵状態のドンキーにぶっ飛ばされ星になった。 と同時に3分たって、喜怒哀楽まみれたドロドロの試合は幕を閉じた………疲れた 結果はこうだ↓ 1位ドンキーハルヒ=2(倒した回数3、落下数1) 2位ネス朝比奈=0(倒した回数2、落下数2) 3位キョンルイージ=-2(倒した回数1、落下数3) 4位フォックス古泉=-3(倒した回数0、落下数3) ハルヒ「どう!これが私の偉大なる力よ!」 みくる「ふう…ハードな試合でした。でも楽しかったですよ♪」 古泉「チッ」 たったの3分ではあるが随分長かった感じがする。もう一度言うが、疲れた。 ってか何みんな本気になってんだよ。ハルヒはともかくとして、何で古泉や朝比奈さんまで本気になってんだよ!? …そういう俺も本気だったかもしれないが。おかしい、スマブラってこんなに体力使うゲームだったか? 違う!この面子だからだ! ピンポーン ハルヒ「ん?誰かしら?」 キョン「ちょっと行ってくるわ」 一体誰だ? こんな大雨の中来るなんて変人以外の何者でもないぞ? ガチャ 谷口「うぃーっす!DODODO、土曜日~だから遊びにきたぜ!」 国木田「あれ?靴がたくさんあるね。SOS団のみんなも来てるのかな?」 鶴屋「こんにちは~にょろ!休日にまで君に会えて嬉しいよお姉さんは!うんうん!」 今後、スマブラにおける地獄絵がますます加速するであろうことを察知し 俺は目の前が真っ暗になった…… Fin(第2試合へ続く…かもしれない)